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甲羅と殻

 オレが解体済みビートルンの山に着くと、モリィが抱えられたままでじたばたと暴れ始めた。

 ここで騒ぎ始めるのはきっと、地面に降してほしいからだろう。この亀と接している時間はそう長くないが、なんとなく考えていることがわかりはじめてきた。言葉こそ通じないものの、これはこれで悪くない。一生懸命通じ合おうとしているような気が、しないでもない。


 オレがじたばた騒ぐモリィを砂の上に置いてそんな事を考えていると、当のモリィはさっさとビートルンの殻を一つ、ひれでぱたぱたと叩きながら


「もも!」


 と、鳴いた。これもなんとなく、言いたいことがわかる。この殻を背に乗せろ、という意味なんだろう。

 モリィが選んだ殻は、積んであるものの中ではどちらかと言うとデカい方だ。工事用ヘルメットを二回りほど大きくしたような大きさだろうか。


 ちなみに、オレがした解体作業と言うのは、ビートルンの脚をもいでから頭部と胴部に切り分け、更にその胴部に詰まっていたナカミ・・・をほじくり出す、という、文字に起こすと鳥肌のたつようなものだった。何体かこなしてからは精神的にマヒして気が楽になったが、最初の一体の解体をする時は、胴部に手を突っ込んだ時の”にゅるるん”という感触に、冗談抜きで悲鳴が出た。あれと同じような作業をこれから日常的にするのかと思うとぞっとするが、それ以上に、今までヒィラがあの作業を黙々としてたのかと思うとそれはそれで……いや、その事は一旦置いておこう。


 とにかくモリィが選んだのは、一番数が多い、胴体が本来の半分くらいになっている殻ではなく、一番大きい殻だった。あれは多分、ヒィラに胴体を斬られずに済んだ、数少ない幸運なビートルンの成れの果てだ。いや、結局死んでるわけだから不幸なのか。


「それがいいのか? 本当に、載せて大丈夫なんだな?」


 念の為にモリィに確認すると、さあ載せろと言わんばかりにくるりと向きを変えてアピールしてくる。かなり不安だが、やるだけやってみるか。


「はいよ。じゃそこでじっとしてろよ……よっ……こいしょっ!」


 思いのほか重くて、既に悲鳴を上げていた腰が更にきしんだ。これ本当に載せて大丈夫なのか……?


「よっ……っと」


 不安を感じながらも、準備万端で待ち構えているモリィの背中に殻を置いた。痛がっていないか様子を見てみると


「ももー」


 と、モリィは背中を振り返って満足そうにしている。

 少し様子を見ていたが、つらそうには全く見えないし、本当に大丈夫のようだ。オレはほっと胸をなでおろす。

 しかし、まさかでかいのを一つ持ってくれるとは思わなかった。


「案外力持ちだな、モリィ……っておい、どうした?」


 小さい体に秘めた可能性にオレが満足していると、モリィは殻を載せたままのそのそとまた別の殻を探して歩き出す。しかし器用なもんだな。あれだけ重い殻を載せて、しかも特に固定してないっていうのに、全然危なげがない。


「もも!」


 と、別の殻の前でモリィがまた鳴いた。おいおい。まだ載せろっていうのか?


「お、おい。もう背中に一つ載せてるじゃねえか。まだ載せろって言うのかよ。載せる場所ねえぞ?」


「も!」


 平気だ、と言いたげにモリィが再び殻をひれで指す。ちなみに、さっきと同じ、大きめの殻だ。


「いやいや。どこに置けっていうんだよ」


 モリィの背中は、さっき載せた殻でもう隠れている。これ以上、何かを載せる場所なんて……


「もも!」


 オレが一人で困っているうちに、モリィはさっさとこっちに尻を向けて早く載せろとばかりに催促を始めた。


「お前な……ここに載せて大丈夫なんだろうな。信じるからな」


「もも! もも、も!」


 大丈夫だと言っているように聞こえるので、オレはまた殻を持ち上げ、さっき載せた殻の上にそっと次の殻を載せた。そして――




「ももー! ももー!」


 ――今オレは、上機嫌で隣を歩くモリィを、オレは何とも言えない気分で眺めていた。


「よかったですね、ウラシマさん。やっぱり幻獣ってすごいです」


 モリィを挟んで反対側にいるヒィラまで、機嫌がよさそうだ。しかし、オレはと言えば。


「はぁ……」


 喜べばいいのか悲しめばいいのかわからず、疲れ・・もあって一人、すさまじく浮かない表情を浮かべていた。

 

「ウラシマさん、お疲れなんですね。もう少しで街に戻れますから、頑張りましょう」


 オレの表情を見てか、ヒィラが心配そうに声をかけてくれた。もう少しで休めると思うと確かに嬉しくはあるが、やっぱりオレの気持ちは晴れず、あいまいに頷くくらいしか、反応することが出来ない。


 何というか、簡単に言うならば、モリィはすごい亀だった。ヒィラはさっきからしきりにモリィを褒めている。


「本当にすごいですね、モリィは。小さいのに、ビートルンの殻をこんなにたくさん載せれるなんて」


「ああ、まさかこんなに載せれるとはなあ」


 素直に喜ぶヒィラの言葉を無視するわけにもいかずに、オレは何とか話を合わせて返事をした。

 あの後、あちこちをくるくると動き回るモリィの背にオレは荷物を積み続け、今ではビートルン5匹分くらいの殻が、固定もせずにモリィの背に高く積まれている。何キロくらいあるんだろうか。五十キロ近くはありそうな気がする。


 ここまで行くと、器用とかいうレベルじゃない。何で荷崩れしないんだろうか。

 それにモリィは重さを物ともせず、今まで同様に元気に砂原を歩いているように見える。本当なら、体が荷の重さで砂に沈んでもいいようなもんだけど、そんな様子もない。これは例の、幻獣の能力って奴だと思ってよさそうだ。実際、かなり助かっていると言える。


 しかし。

 頼りになる仲間が増えて喜ぶべきなんだろうが、実際のところ、オレは落胆していた。戦いになればヒィラが活躍してくれるだろうし、荷運びはモリィが活躍してくれそうだ。と言うことは、だ。


 現時点で一番役に立たないのは、オレと言うことになるわけだ。それはなんだか、悲しい。ちなみに、残りの殻は、モリィが首をふっていたので乗せるのを諦め、オレとヒィラで運んでいる。内訳はオレが二体分、ヒィラが四体分だ。


「はあぁぁぁ」


 情けないやら恥ずかしいやらで漏れた盛大な溜息が、広い砂漠で妙に響く。背中にのせた隣の一匹と一人に比べれば小さな包みが、えらく憎らしかった。

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