荷運びと亀
モリィはオレがまたぎ越えたのに気づくと、シャカシャカひれを動かして、またオレの前に回り込んで来た。たぶん手助けしようとしてくれてるんだろうけど……今は申し訳ないが、へとへとで余計な体力を使いたくない。ここは心を鬼にしてモリィをスルーして通りすぎることにしよう。オレはそう決めて、モリィを避けるように更に前進することにした。
「も……」
が、足元から聞こえたせつなげな声と、すがるような視線に負けて、今度こそ足が止まった。心が痛い。やめてくれ。罪悪感が増すじゃないか。
「モリィ、気持ちは嬉しいんだけどな」
やっぱりきちんと説明しないとダメかもしれない。つぶらな瞳に耐えかねて、オレはモリィの説得を試みる事にした。胸にすっぽり収まるくらいの甲羅を上から見下ろし、出来るだけ優しく言葉を続ける。
「いくらお前が幻獣っていっても、こんな重いの背中に乗せて動けねえだろ。動けるとしても、落っことしてケガなんてされたら困るんだ」
事実、ビートルンの殻は所々切り裂かれてはいるが、どれも曲線状でひっかかりが少ない。昨日みたいに背中にくくりつけるのは難しそうだし、もし背中から落としたら、ひどいケガになりかねない。モリィの小さな甲羅から伸びる、小作りなヒレが潰されたら、大けがになるかもしれない。
「もも! ももも!」
しかし、モリィはオレの心配をよそにすごい勢いで首を振る。絶対落とさないと言わんばかりだが、一体その自信はどこから来るんだ。それにしても困ったぞ。聞き入れてくれなそうだ。うーん。
オレだって、何も手伝いが困ると言うわけじゃない。モリィが荷運び好きってことはなんとなくわかったし、ここは妥協策で手を打ってはくれないだろうか。
「モリィ。手伝うって言うなら、帰りも道具運ぶの手伝ってくれよ。それならオレも、かなり助かる」
「も!」
オレの提案はすぐさま、ぷいっと顔を背けられて拒まれてしまった。
ううむ……どうしたものか。しかし幸いなのは、モリィの手足では自分で荷物を背中に乗せたりは出来ないことだろうか。これならまあ、ヤツが勝手に荷物を載せてけがをするってことはなさそうだ。
「ウラシマさん。もう少しモリィを頼ってあげてもいいと思います」
一人頭を悩ませていると、ヒィラが近寄ってきて、そんなことを言ってくる。
頼れって言われても、こいつにどんな力があるかいまだによくわかってねえんだよな。
「私が聞く限り、幻獣の能力はマグの常識を大きく覆すようなものばかりです。確かにモリィは小さくてかわいらしいですが、簡単にケガするような頼りない存在じゃないと思いますよ。モリィがこんなに主張するんですから、きっと何か意味があると思います」
「も!」
その通り、と言わんばかりに、今度は頭を縦に振りながらモリィが鳴く。
どうにもピンとこないが、オレはモリィの小さな見た目を気にしすぎてるんだろうか。正しい見極めが出来ずに活躍の場を奪うようじゃダメだとは思うんだけど……実際のところ本当にこのチビはそんなに頼っていい存在なのか?
「もも! も!」
さあ、さあ、とモリィが騒いでいる。まあ、一度だけ様子見してみてからにするか。
オレは一つ溜息をつくと、やる気にあふれるチビ亀を両手で抱き上げた。
「わかったよ。荷運び手伝ってくれ、モリィ。でもな、頼むから無理はするな。オレはお前が出来るって言ったことをちゃんと信じるが、出来ないことはちゃんとそう言ってくれ。約束出来るか?
」
「……も」
オレの言葉をちゃんと解釈するような間をおいて、モリィはこくりと頷く。ちゃんと伝わったと思うことにしようじゃないか。オレもその気持ちを伝えるように、モリィに向かって頷いて見せた。
「よし。じゃさっそく、あの重たい殻を運んじまおう。しかし落とさないようにするにはどうしたらいいかなあ。ヒィラ、この殻包み込めるような布ってあるか?」
オレはモリィを抱き上げたまま、ヒィラの方を向いて尋ねる。
「はい、いくつかなら包めるような大布を持ってきてます。それに包んで、モリィの背中に乗せますか?」
「もも!」
オレとヒィラが相談をしていると、手の中でモリィが暴れて拒否を示す。
このタイミングで拒否って何をだ?
「何か嫌がってますね。うーん……今の会話の流れで嫌がるっていうと、布なんていらないって言いたいんでしょうか?」
「そのまま積めってか? 危ないって話したばっかりじゃねえか」
オレはまた、モリィを見つめて尋ねる。
黒いつぶらな瞳は、オレを目をじっと見返すばかりだ。やれやれ。出来るって言ったことは信じねえとな。もしかしたらこいつはこいつで、自分の能力を教えようとしてるのかもしれない。
「……わかった、じゃあさっそく頼むわ」
「ももー!」
片ひれを上げて元気よく返事したところを見ると、どうやら考え方はあってたみたいだ。やっぱりまだちょっと心配だが、試しにやってみるか。
オレはそう決めると、モリィを脇に抱えて殻の積んである方に向かって歩き始めた。




