始まりの時-1
-強盗だ!手をあげろ!-
ある日突然このように強盗犯が自分の目の前に現れたらどうする?しかも相手は銃まで所持している。
助けを待つ。説得を試みる。襲撃する。と大体の人はこの三つから選ぶと思う。
けれども俺はこの三つのどれにも当てはまらない。
俺は時を駆ける。事件が始まる前の時間に戻り強盗犯を観察する。そしてまた時を駆け事件を早期解決させる為動く。
-強盗だ!手をあげろ!-
この発言を聞くのも三回目。この発言後強盗犯は一度外を確認するためチラリと左にある入り口へと顔を向ける。
この時強盗犯の右側は完全な死角となる。俺はその瞬間を見逃さない。二度目の時駆けは相手の動きを見てどう動くか決めるためだ。
俺は強盗犯の頭をゴンッと鳴らせるほどおもいっきり殴り、よろめいた足を引っ掛け転ばせる。次に強盗犯が落とした銃を拾い強盗犯に向けて一度発砲する。チェックメイトだ。
「ひぃ...お、お前は英雄!どうしてここに!」
銃を奪われた強盗犯が足を震わせながら中々にデカイ声で言う。
英雄は俺の二つ名だ。今回のようなことを何度もしていたら世間からはそう呼ばれ認知されるようになった。
だからこそ俺は強盗犯に向けて一言だけ発する。
「お前が悪で俺が正義だからだ」
この言葉は俺がアニメ「世界を救い渡る者」で発する決め台詞だ。
俺の起こした出来事は才学文庫で小説として出版され、アニメ化もされ今や映画までも上映されている。
一度観に行ったけど自分だと思うと恥ずかしすぎて途中で離席してしまったけど。
まあつまるところ俺はちょっとした有名人な訳だ。そんな奴がこんなところで事件を解決したら―――
「かっけえ!」「すげえ!本物だ!」「俺後でみんなに自慢しよ!」
―――こうなる。静かだった辺りは一気に熱を持ちうるさくなる。
俺はダッシュでその場から去る。俺の後ろを追いかけてくる者はいない。そういう決まりだからだ。
犯行が起きた現場の銀行から少し離れたコンビニまで俺は走った。
「ここまで来ればもう見えないだろ...」
俺はコンビニに入る。そもそも銀行に言ったのはコンビニで特大プリンを買うついでで行ったんだ。銀行がメインではない。事件もたまたま起きた。でもやっぱ時駆けは疲れるな。一日3回くらいが限界だ。
まあ、事件なんてそう何度も連続で怒るものじゃないから一度に3回も使う贅沢ができるんだが。無理すれば4回はいけそうだけどね。
「いらっしゃいませー」
俺は特大プリンがある棚へと直行する。...ん!?特大プリンが棚に後一個しかない!セーフ。意外と人気なんだよなぁ。これ。
俺が特大プリンに向かって手を伸ばすと誰かの手とぶつかった。
手が伸びてきている方へ向くと女の子がいた。彼女も僕と同じようにこちらを見ている。
「あなたも特大プリン目当てですか?」
「そうだよ。もしかして...いや、君も特大プリン目当てだよね」
「もちろん!」
聞くと彼女は誇らしげに自分の胸をポンと叩いた。
「んー。じゃあ俺は他の店に買いに行くよ。じゃあね」
女の子には優しくしろと親からよく言われた事だ。実を言うとこの特大プリンが売っているのはここだけ。今回は諦めよう。
「待って!」
彼女は僕の服の袖を掴み引き止める。
「一緒に食べましょ?」
彼女の言葉に僕は驚く。初対面の同年齢くらいの女の子にそんな事言われたらそりゃビックリもする。
「...一緒に食べなさい」
しかも強制のようだ。
「どうして?」
「だって貴方嘘ついてるじゃない。この周辺のコンビニには特大プリンは置いてないわ」
バレてーら。
「それなのに私に最後の一個を譲る行為はこの特大プリンの味とボリュームを知ってる人には中々出来る芸当ではないもの」
そうだね。その特大プリンの味とボリュームは日本の誇りだ。
「でも私は人から奪ってでも食べたいと思うゲスではないわ。それに一緒に食べてもらわないと特大プリンの後味が悪くなる」
こいつ...できる!
「じゃあ僕も半分もらおうかな。値段は割り勘でいい?」
「当たり前じゃない!ここで多く払ってもらったら結局後味悪くなるわよ」
こいつ面白いな。
「ほら、レジ行くわよ」
俺と彼女はお金を出して特大プリンを買いコンビニを出た。
しかし彼女はコンビニを出ても止まることなくどんどんと進んでいった。
「お、おいどこにいく――」
「いつもここで食べるのよ!」
彼女が止まる。そこは川の土手だった。