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内職で異世界の暗黒神はじめました!  作者: 蘇芳ヨウ
【第1章】創神記 黎明の神
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003 第一異世界人発見!

 おれはズキズキする頭で真剣に考えてみた。

 いったい神は何をすべき存在なのかと。

「――世界平和? それとも人類を正しい道に導くとか?」

 頭に浮かんだことをつぶやいてみたが、どうもしっくりとこなかった。


 そもそもおれは特定の宗教を信じたことはない。だからといって積極的に神の存在を否定する無神論者でもない。

 たぶん初詣に行ったり、ちょっとした朝の占いを気にしたり、暗闇で幽霊の存在を怖がるというのも一種の神秘的存在に対する信仰の一種だろう。そういう普通の日本人としての感覚は20年たらずの人生の中で無意識のうちに神道的、仏教的、あるいはそれ以外のものの考え方が自然と習慣として身についている。

 とはいえ多くの日本人同様、具体的に神の存在をこれまでの人生で一度も意識したことはなかったので、いざ自分が神だと言われても自覚が持てなかった。

 なんとなく仏像のような姿だったり、白い長衣に白髭をはやした老人の姿だったりといった漠然としたイメージはある。でもそれはあくまで物語のなかの神様のイメージであって現実の姿だとは考えても見なかった。


「とりあえず信者を増やさないとなぁ……」

 神さまと言っても内職のバイトだ。お金をもらうのが目的であるべきだ。

 そしてお金をもらうためには信者をできる限り増やさなくてはならない。これだけは確実なのだ。

「やっぱり月10万円はほしいよな。とすると当面は10万人が目標か」

 改めて口にすると、その数に圧倒される。先の長そうな話だ。

「10万の信者もまずは一人目の信者、つまり教祖を見つけるのが最初の試練だろうな」

 とはいえ、あの大自然のなかで教祖を見つけるどころか人間を見つけるのさえ難しそうだ。

「案ずるより生むが易し。もう一度、行ってみるか」

 不意におれは思い立つ。ひとりで再びあの異世界に行ってみようと。

 それに本当にあの光景が夢でないことも確かめてみたかったというのもあった。

 おれはロマに教えられたとおり指輪をこすって意識を異世界のことを脳裡に思い浮かべてみた。


 二度目の来訪は瞬間的だった。

 カニ足の殻から身がするっと抜けるみたいに肉体から魂が抜けてゆくような、あまり気持ちのよくない感覚の直後、おれの眼前にはあの異世界の山々や草原が広がっていた。

 とはいうものの、さっきはロマに異世界だと紹介されたから素直にそう信じてしまったが改めて観察すれば、ここが異世界だという確たるものは何一つない。スイスのどこかだったとしても浅学なおれには見分けられなさそうだ。

「……ん?」

 ただ違和感を感じた。

 相変わらず小高い丘の上から下を眺めても眼下には以前と同じく人気はない。遠景の特徴的な山河のかたちからして同じ場所だ。だが、あきらかに景色は一変していた。

 理由はすぐにわかった。花だ。草原はあちこちで可憐な白い花が咲き誇っている。さきほどロマと来たときは匂うばかりの若草が茂っていたのに今は見事に一面花盛りなのだ。


 それともうひとつ、前回は気づかなかったが足元に40センチほどの小さな石柱がひっそりと建っている。

 石の表面は苔生して緑色に染まり、すっかり古びてはいたが、そのかたちは疑いようもなく自然石ではなく人工的に切削されているように見えた。

 さらにその石柱を取り巻くように矩形くけいの石が周りに並んでいるのが下草の隙間から窺えた。

「古代文明の環状列石ってやつか?」

 オカルト雑誌『ムー』で読んだことがある。たいていこういうものは古代の宗教的な遺跡らしい。

「もしかしておれのための祠みたいなのとか? でも新米神のおれのなわけないか……」

 そんなことを考えながら石柱を眺めていたら、その石柱の根本に白い花で作られたリースを見つけた。花はまだ萎れていない。どうやらさっきだれかが供えたものらしい。

「近くに人がいるっ!」

 ようやく人のいる形跡を発見してうれしくてたまらなかった。

 おれはまだ近くにいるのではないかと、あたりをよく探してみた。

 するとおれの立ち位置からは灌木の茂みで死角になっていた丘の斜面に数十頭の羊の群れを見つけたのだった。

 羊は家畜だ。それにこのへんは牧畜が盛んだとロマも言っていたことも思い出した。

「羊飼いはどこに――」

 おれはさらに探してみた。

 羊の群れからそう遠くないところにきっと羊飼いがいるはず。

 イメージ的には少年だ。『アルプスの少女ハイジ』のペーターみたいな……あれはヤギだったか。

 そんなくだらないことに思いを馳せつつ、さらに探してみると羊の群れのさらに先の大きな岩の陰に人影を見つけた。

「――第一異世界人発見!」

 おれはどういう人なのか確かめるために近くに駆けよった。

 駆けよったというのは語弊かもしれない。おれは走らなくても行きたい方向へと意識を向けるだけで素早く移動できたのだ。おれはわずかに地上から浮いている。まるでエアホッケーみたいにだ。


 その人は、すやすやと寝息をたてていた。

 アッシュブロンドの長い髪を太陽の光にきらめかせながら、きめの細かい肌に大きな睫毛まつげの影を落としていた。

 すっきりした鼻梁、薔薇色のくちびる、ほっそりとした首筋――瞳を見るまでもなく麗しき乙女の姿だった。

ストーンサークル【stone circle】

石を環状に配置した古代の遺跡である。環状列石かんじょうれっせき環状石籬かんじょうせきりともいう。(wikipediaより)


英国のストーンヘンジ、米国のダニッチ(ダンウィッチ)等が有名。

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