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女神再び

(………ん?)

気付くと暗闇の中にいた。

どこを見回しても暗い空間が広がり、何も見えない。

「ここは……女神に会った空間か?……ってことはまた死んだのか……………もしそうだとしたらアランは……」

前回はあった女神の姿は無く、アランがどうなったのかもわからない。

じっとしてても仕方ないと、俺は何か状況を知る手がかりがないか探す為に移動を始めた。

歩いているのか浮いているのか、前に進んでいるのかも曖昧な闇が続く。

「………………」

どれくらい経ったかわからないが、何かが聞こえた気がした。

「…………っ……」

(女神か?)

俺はなんとなく声のようなモノが聞こえた方に向かうと、遠くに光の粒が見えた。

「っ……ま………い……」

近づくにつれて明滅する光と、声がはっきりしてくる。

俺はそこで驚くべき光景を目にした。

明滅する光の正体は80インチはある大型のディスプレイで、某家電メーカーの販売している家庭用据え置き型ゲーム機が接続されている。

映し出されているのは大手の開発会社が手掛ける大作RPGの最新作のようだ。

そして、大画面の前に鎮座してコントローラーを握る肉の塊………

「あーっ!クソがっ!!全然落とさねーじゃねーか!何が256分の1の確率だ。もう40時間もやってるってのに……いい加減にしやがれっ!!」

肉の塊……もとい前回会った時と変わらない姿の女神は、ぶちギレた台詞と同時にコントローラーを叩きつけた。

(うわっ、今ゴキャッとか音したぞ。コントローラーもセンサーやコードレス化で精密機械化してるってのに………)

冗談抜きに湯気のような怒りのオーラを纏った女神の姿が蜃気楼のように揺らぐ。

「はぁー、気持ちは解るけど物に当たるなよ。コントローラー壊れるぞ」

「あぁん?」

振り向いた女神の形相は正に般若のモノで、睨まれた圧力で身体が震えだす。

漫画とかだとゴゴゴゴゴッと効果音が辺りに書かれていただろう。

「ん?………何でお前がここに居るんだい?」

俺に気付いた女神から圧力が無くなり、怒りのオーラも霧散していくと、ガタガタと震えていた身体から力が抜け、膝から崩れる。

「ぷはー………死ぬかと思った…って俺もう死んでるから消滅するのか?」

「そうさね、塵も残さずキレイサッパリ何も無かった事になるだろうよ。で、何でここに居る?」

俺が質問に答えなかったからか、聞きたくない答えを不機嫌に言い放ち、女神から先ほどと同じ質問が飛ぶ。

「あー、何でここに居るかは正直言って俺にもよくわからん。多分だが…………」

魔物の襲撃から天魔人とか言っていた頭の飛んだ変態野郎に吹っ飛ばされた話をしていく。それを聞いていた女神は腕組みをして考え事を始めた。

「………もう出くわすとは思わなかったねぇ」

ボソッと呟いた女神の言葉は俺にはよく聞き取れなかったが、その表情は今までの女神のものとは思えない複雑な感情が見て取れた。

「あの野郎のこと、知ってるみたいだな?」

「…………………」

俺は女神に答えを求めたが、腕組みしたまま答えようとしない。

「……なんかヤバい事なのか?」

「…………………時彦、お前さん別のヤツになってあの世界を楽しまないか?」

「……はぁ?」

唐突に女神の口から飛び出した提案に理解が追い付かない。

いや、言葉は理解できる。できるのだが、その理由がわからない。

「………それっってアランに憑り付くのを止めて、別のヤツに入れってことか?」

「そうだ。これは禁忌なんだが、お前が望むなら特別に干渉して身体を用意してやる」

禁忌事項に触れてまで別の生き方を提案する女神の思惑が全くわからず、俺は考え込む。

(何故こいつは急にそんな事を言いだしたんだ?アランもこいつが用意したと思ってたが、偶然ってことか?……禁忌とか言ってたし、この提案は女神自身か世界そのものにリスクがあると思って間違い無さそうだな。それにあの変態野郎のこともある…………何より……)

疑問ばかりが増え、女神の意図が読めず、思考の渦に浸かる。

「さあ、どうする?」

「……なあ、女神サマ。選ぶ前に一つだけ教えてくれ」

「………いいだろう、何だい?」

俺は一つ息を吐き、女神を見据えて真面目に問いかけた。

「何故俺にそこまでするんだ?アンタが禁忌を犯した時のペナルティがどれ程なのかわからないが、かなり不味いことだから禁忌なんだろ?俺にそんな価値があるとは思えない。何故だ?」

「………………はぁー」

女神は盛大なため息を吐き、片手に頭を乗せて抱える。

「チッ!全く、答え難い事をあっさり聞きやがって……………」

電源の落ちて無いゲームのBGMが流れる中、女神は語る…………

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