魔法書
相変わらず会話が多く、テンポが悪く、申し訳ありません……やっと魔法の登場です
マナイ村に来てから数日………
ステラの父親は毒消しが効いて今では立って歩けるようになったし、アランは辺境兵の仕事で防護柵の修理や魔物の討伐、薬草の採取や鍛錬に励み、時には畑仕事や子供と遊ぶこともあった。
その数日の中でアランは両親の墓に参り、騎士と魔法使いだった親の話もしてくれた。
俺は相変わらずテンションの高いままアランの仕事や鍛錬、様々な話、ステラの料理と、マナイ村での健康な生活を満喫している。
(そういえばアラン、魔法ってのはどうやって使うんだ?この世界に来てからまだ見たことねーけど、俺にもできるか?)
「魔法かい?うーん、ちょっと長い説明になるけど、いいか?」
(おう!聞かせてくれっ)
………………
確かにちょっと長い話だったが、なんとなく魔法の仕組みはわかった。
大気中には目に見えず、害もないマナと呼ばれる魔力があり、器になる持って生まれた精神力に集めて凝縮する。そこに属性を決める呪文を唱えて発動ってことらしい。
「普通の人が魔法を使えないのは、その精神力が小さいからって話だ……俺も成功した事はない」
(なるほど……ん?それじゃあアランの母親はかなり凄かったんじゃないか)
「さあ、どうだろうね。実際に母さんが魔法を使うのを見たことないし。魔法の本なら家にあったと思うから、見てみるか?」
(そういうことは早く言えよっ。もちろん今すぐ見に行くぞ!)
「はいはい、小さい村なんだから、どうせすぐそこだよ」
一分も歩かず着いた家の扉をガタガタと明け、俺達は中に入った。
多少痛んではいたが、思ったより埃っぽくない。
「えっと、確かここに……うん、これだ」
アランは奥の収納から一冊の本を取り出した。
(………アラン、ちょっとこの本おかしくないか?普通に紙だぞ?)
「なに言ってるんだ?本なんだから、紙に決まってるだろ……まさかトキヒコは紙の本を知らないのか?」
(知ってるに決まってんだろーが!こんな世界なら本なんて言ってもせいぜい羊皮紙くらいだと思ってたんだよ)
「なっ、バカにするなっ!確かに田舎で文字を読める人は殆どいないし、本なんてまだ各国の専用施設にしかないが、ちゃんとしたものが作られているんだっ!」
(そ、そうか、それは悪かった………ん?)
「なんだ?まだ何か不服があるのか?」
(なぁ、アラン……確かさっき、国の施設にしかないとか言わなかったか?)
「あぁ、言ったな。それがどうした?」
(いや…その、な……端っこに“絶対持ち出し禁止”って書いてあるんだが…………これ、いいのか?)
「………えっ?」
俺の発言に少なからずイラついていたアランだったが、やはりマズいのか血の気の引いた顔で固まっている。
(あー、知らなかったみたいだな……ま、昔の事だ。やっちまった事は忘れて、早く読ませろ!)
「………うぅ、母さん……なんで……」
母親の行動にアランは大ダメージを受けたようだった………
その後、半日を魔法書の読破に使い、俺は載っていたほぼ全ての呪文を覚えた。
「しかし、よく読めるな。トキヒコの世界とは違う文字なんだろ?」
(確かに俺もなんで読めるのかわからんが、多分女神様の仕業だろ。言葉も違うはずなのに通じてるし、気にしないほうがいい。さて、それじゃあ実践してみようか)
本当に成功して村に被害が出ないように、俺達は少し離れた草原に来た。
(よし、やるぞ。……ハァァァッ!)
別に専用の呼吸なんて必要ないのだが、ここは中二要素が大事な場面だ。
「えっ?……ウソだろ」
アランが胸の前に構えていた両掌の間に魔力が収束していき、慌てて前に突き出す。
(吹き抜ける一陣の風よ、我が刃となりて敵を斬れ……風塵剣!!)
ヒュオォ……カッ……ドンっ………ドシャァーン
「……………」
(うおっ!……できたぞ………おい、アラン、見たか?凄げー、マジで魔法が使えたぞっ!!)
少し離れた場所にあった木を切り倒したのは四大系統の一つ、風の魔法だ。
「そ、そんな……なんで?」
今まで一度も魔法が成功しなかったアランは戸惑いしかないようだ。
(多分俺の身体のせいじゃないか?女神様の話だと俺は精神だけみたいなものらしいから、マナの器に最適なんだろ。)
「……………」
(しかし、よく俺の呪文で発動したよな。単なるマナの器だけの役割だったら虚し過ぎるぞ)
「あー、もしかしたら俺に取り憑いてるからじゃないか?よくわからんが……」
(なるほど、そう言われるとそんな気がするな………よくわからんけどな)
「ぷっ……とりあえず成功して良かったって事だな」
(そうだな、魔法書を持ち出してくれたアランの母君に感謝だ!)
「ぐぅ……頼む、トキヒコ……それだけは言わないでくれ」
うなだれて耳を塞ぎ、首を振るアランの心の傷に塩を塗り込み、俺の充実した1日が過ぎていく………
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