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憑依

続けることも難しいと思うけど、書き出しが難しい気がします。

スッと自然に意識が戻り、妙にスッキリした目覚めだった。

目の前に広がる景色は毎日見てきた病院の天井ではなく木々と下草で、病人だった自分には絶対に行くことのできなかった場所だ。

「夢じゃないんだよな?本当に別の世界に来たんだ……ってことは俺の身体も健康になったんだよな!」

俺は自分の身体を見るためにゆっくりと視線を下げた。

「!!」

見慣れた薄い黄緑色の病院着、動かす手足は骨と皮だけにしか見えない細さの病人仕様と、立って手足を動かせるのが不思議なくらいだ。

そう、俺の身体は健康になってはいなかった……

期待が大きかっただけに落胆も大きく、怒りがこみ上げてくる。

「あのブタババァ、結局騙しやがったんじゃねーか!何が願いを叶えるだ、ふざけやがって……話が違うぞ!!」

天を睨み叫んだ瞬間目の前を光が走り、足元に突き刺さった。

「うぉあぁっ」

突然の攻撃と音にビビり、足元にクレーターを作った落雷に嫌な汗が噴き出して背中を伝う。

土煙が晴れると底にあった石に文字が掘られていたので読んでみる。

「誰がなんだって?このクソ餓鬼が!!いい加減口には気をつけなっ!いいかい、今からその世界とお前の状態を簡単に理解させてやるから、ありがたく思いなっ。お前みたいな馬鹿でもイメージすりゃいいからね」

読み終えると、頭が揺さぶられるような気持ち悪さが襲ってきた。

数秒で収まり、頭の中に未開封の宝箱があることに戸惑う。

「マジか?そんなあっさり記憶とか弄れるのかよ……都合よ過ぎだろ」

(あのクサレ女神の事だから、どうせ面倒臭いとか言って手抜きしてるだけなんだろうけどな)

また雷が落ちてきそうな副音声を心の中で付け足して、俺は脳内で宝箱を開けるイメージをした。

『そこはアタシの管理する世界の一つで、お前がよく読んでた漫画や小説に似た剣と魔法の世界、クジャクだよ。そして、お前の状態は魂とか意識体とか精神体とか呼ばれるモノで、他人に取り憑けるようにしてある。そこでお前は羨ましがっていた健康な他人の生活を楽しみな。オマケも付けてやったから何でもできるだろうよ。』

とりあえず自分の状況はわかった。

………………ハァ?

いや、確かに俺は健康な他人を羨ましいとは思ってたよ?でもそれは自分も健康になりたいってことで、他人になってみたい訳じゃねーよ!しかも他人に取り憑け?なんか間違ってるぞ!!

状況がわかっても納得がいかない。

その後ひたすら空に向かって罵詈雑言を吐き散らしてみたが、あのクソババァ完全にシカトしてやがる。

全くの反応の無さにガックリとうなだれ、泣きそうになった時、「はぁっ、はぁっ……くっ」ガッサガサ、ガチャガチャ、「キキャァァ」などと空気の読めない音や声が近づいてくる。

音の方を見ると、右手の茂みから若い男が転げ出てきた。まだ中学生くらいにしか見えない男は傷だらけの皮と金属の胸当てを付け、これまた年期の入った刃こぼれだらけの槍を持っている。

所々血が滲んでいるのは茂みで引っ掛けた擦り傷だろうが、走って体力を使った方が深刻なようで槍が杖代わりになっていた。

観察していると、男と同じ茂みから見たことの無い生き物が出てくる。

背丈は小学生くらいで土気色の肌。尖った耳と高い鼻、ボロ布のような腰巻きと汚れたナイフ。

(見た感じゲームとかによく出る一番初期のモンスター、ゴブリンとか言うヤツだよな)

まずコレに負けるような主人公はいないだろうし、どんなポンコツプレーヤーでも勝てる相手だという認識だが、目の前の男は今にも負けそうだ。

(あー、つまりこの小芝居もあのクソババァの仕業で、このヘタレに取り憑いて何とかしろってことか……また他の選択肢が無いんだろうな)

威嚇の唸り声を出し、飛びかかろうとするゴブリンと、無駄に槍を振り回して後ずさる男を無視して、俺は周りの地形を見回し最適なポイントを探す。

(多分この男を見捨てた所で何の影響も無いんだろうが……よし、あそこならいいか)

他人に取り憑く事に不安もあるが、今は迷っている暇を与えられていない。

男に近づき身体を重ねると視界が切り替わり、疲労でズッシリと重い手足の感覚がある。

(うわっ、なんだこのダルさは……病気とはまた違ったキツさだ……)

「えっ?な、なに?誰かいるのか?」

急に声が聞こえたような状況に男が戸惑い、辺りを見回す。

(あー、取り憑いても相手の意志は残るのか。微妙だなー……って今はそんな場合じゃねーよ。おい、前見ろ、前!)

「えっ?う、うわぁっ」

戸惑う男にチャンスだと思ったのか、ゴブリンが間合いを詰め、ナイフを振ってきた。

間一髪で動いたおかげでゴブリンのナイフは胸当ての金属部分に弾かれ、ダメージは無かったようだ。

(はぁー、助かったか……おい、今は俺の事より生き残ることが優先だろ、しっかり相手を見てろよ!)

「あ、あぁ、わかった」

再び襲い掛かる機会を狙うゴブリンを見据え、男は重い手足を動かす。

(今の体力じゃ逃げられないのはわかってるな。戦って勝つしかない。簡単な作戦だが俺に考えがある。お前の真後ろに木が二本ある。その間にアイツが来るように引きつけ、合図したら全力で突くんだ!)

「………他の方法は思い付かないな……よし、やってみるよ」

ジリジリと後退する男に対してゴブリンは汚れたナイフを舐め、「ケキャッ、ケキャー」と奇声を上げて勝ち誇っているようだ。

(バカが余裕かましやがって。勝つのは俺達の方だ。)

目標地点に着いた俺達は足を止めて呼吸を整え、ゆっくりと近づいてくるゴブリンを待つ。

(まだ……もう少し……今だ!)

疲れた身体に鞭打って踏み込み、二人の意志が重なり合って全力の突きを繰り出す。

ゴブリンは先ほどまでと同じように槍を避けようとしたが、俺の予想通り横の木に阻まれ、思うように動けなかった。

ズブァシャッと鈍い音と、槍がゴブリンを貫いた感触は同時。「ギャキィィ」と断末魔の悲鳴が続き、ゴブリンの死体は細かい砂のようにサラサラと崩れていく。

「はぁ、はぁ……やった…ぞ」

疲労と相手を倒した安堵で力が抜けたのか、ガランと音を立てて槍が落ち、男は膝と手を付いて荒い呼吸を繰り返した。

男の疲労や痛み、倦怠感は身体を通して俺にも伝わるが、それ以上に勝利の喜びと達成感が感じられ、心地よい疲労感に変わっていく。

(なるほど、健康な人ってのはこんな体験ができるのか……ふっ、はははっ……)

俺の笑いが不思議だったようだが、つられて男も笑い出した。

「(はははっ、あっは…ははっ)」

こうして俺の初体験は増えていくのだった。

世界観の説明とゴブリン一匹倒すだけで死にそうな主人公と筆者の脳細胞……何とかなるのか……

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