プロローグ
ぼちぼちと思いついた事を書いていこうと思ってます。
羨ましい………
誰でも一度はそう思った事があるだろう。
金持ちの暮らし、彼女や彼氏、容姿の良さ、才能………
普通の生活ができる人でも自分に無いモノを持っている相手が羨ましいと思ってしまう。
もちろん俺だって例外じゃない。
俺が羨ましいと思うモノ……それは健康な身体だ。
先天性の持病で、病院暮らしをしてきた俺は何よりも他人が普通に持っている健康が欲しかった。
自らの足で走り回って、様々な景色を見て、美味い食事を味わい、色々な体験をしてみたかった。
他の人の生活はどんなに楽しい事があるのか?
どんな些細な事で不幸のどん底みたいに思うのか?
できるものなら健康な人の生活をしてみたかった……
それが発作で意識が無くなっていく俺の最後の思いだった。
「お…さっ……お…ろ…」
(何だ?何か言ってるみたいだな)
「起きろって言ってんのがわからねーのかっ!!」
「おわぁっっ」
いきなり耳元に大音量の声が響き、微睡んでいたような感覚が吹っ飛んだ。
驚いて周りを見ると、暗い空間にやたらとドッシリとしたオバチャンがいた。
「ふん、やっと起きたか。ったく、手間ぁかけさせんじゃないよ!ん?何だい、その顔は」
叩き起こされた驚きと、余りにも強いインパクトでフリーズした俺は呆けた顔になり、声も出ない。
「ははーん、さては女神たるアタシの神々しい美しさに見惚れてるんだね。まだ若いアンタには刺激的過ぎたかね」
チリチリのパーマに脂ぎった団子鼻、首の見えない二重顎、デブった体に神話の女神風の際どい布を張り付け、デカい口からダミ声で寝言を張り上げる異様な物体………その瞬間俺は悟った。
「あぁ、俺は病魔に負けて死んだんだな……ここは地獄か…だからこんなモノが見えるんだ」
「なんだって?今なんて言った?」
思っただけの言葉が聞こえたらしく、女神?はゴゴゴッっと空間ごと振動する怒気を振りまく。
「いえ、何でもありません、美しい女神様」
即座に目を逸らして言った言葉は棒読みになってしまった。
「まったく、最近の若い男は……まあ、いいだろう。本題だ、穂村時彦。お前の願いを叶えてやるよ」
「ね、願い?」
「お前、他人の生活が羨ましかったんだろ?健康な身体になってみたかったんだろ?今までの世界じゃあ無理だけど、アタシんちの庭なら貸してやるよ。どうだい?」
一応俺自身が選択するように問いかけてはいるが、口ぶりはほぼ強制だ。女神?の血走った目が他の選択肢なんて無い事を物語っている。
「じ、じゃあ、お願い…します」
「何だい?それがお前の願いを叶えてやる女神様に頼む態度かい?」
女神?は一転してニタニタと嫌な笑みを浮かべ、犬でも追い払うようにシッシッと手を振る。
「くっ……う、美しい女神様、ど、どうか俺の願いを叶えて下さい…お願い、します……」
俺は大切な何かを自分の手で捨てた気がした。
「まぁまぁだな。それじゃあ、さっさと行きな!」
最後のダミ声で俺はまた意識を失った……
読んでくれる人がいるといいですね~。筆者も他人様のあれやこれやを羨ましく思いながら書いていくつもりです。