おめん
夏祭りの喧騒も終わり、盛り場から少しはなれた小川のふちに腰をかけた。
小川の水をすくい上げて顔につける。火照った頬に冷たい水が気持ちいい。
ふと川上をながめると、おめん?のようなものが流れている。
近づくにつれてだんだんと鮮明に見えるようになってくると、それがお祭りのお面であることがわかった。
ひょっとこみたいなやつだ。
ちょうど手の届く位置に流れてきたので、何の気なしに手に取る。
おめんの裏側を見ると、そこに張り紙があった。
ーーーこの張り紙は、5秒後に自動的に消滅する。
ーーーなお、周囲500kmは、向こう50年間、人が住めない世界になる。
1。
2。
何となく、非日常に期待するような、そんな気持ちで心の中で数えた。
3。
4。
もしかしたら、もしかするかも。
少しだけこわくなって、空を見上げた。
8月初旬の空。最も力強い生命の季節。輝く星は、夏の陽気でどこか蜃気楼のようで。
さっき僕をふった彼女はいまごろ何をしているんだろうか。
5秒。
特に何も起きなかった。
10年後、僕は伝説の勇者として名を馳せるが、それはまた別のお話。