ルーの苦難。
チリンッ。
一度の鈴は、セバス様とオレの合図。
理性がありながら、言葉を話せないのは辛かろうとセバス様に魔具を渡した時に決めた。
本来であればアルベルト様付きのオレには関係のない話なのだが。
セバス様に付人が出来るまでは、と、そんなふうに考えた自分に苦笑する。
あぁ、オレはセバス様を気に入ってしまったのだな。
御会いしてすぐ、愛称でお呼びしてしまうほどには。
まぁ、あの方はめったに鈴を鳴らさないが。
「アルベルト様、少しお側を離れますがよろしいか。一人残しておきますので。」
「わかった。」
アルベルト様に了承をもらいセバス様の部屋にとぶ。
……なんてことだ。
セバス様の部屋が魔力の光で溢れていた。
まだ赤子の身で魔法を使い、笑いながら私を見ている。
オレは咄嗟に詠唱し、部屋に結界をはる。
「……風の結界。セバス様、光の魔法を解いて頂けますか?」
鈴は鳴らない。
「セバス様。大事なことなのです。一度魔法を解除してください。」
……チリンッ。
ふわっと光が一斉に舞い、そして消えた。
「……今の光魔法は、無詠唱で?」
チリンッ。
「他の魔法も使えますか?」
……チリンッ。
「……使ってみて頂けますか?」
チリンッチリン。
「大丈夫です。結界を張りましたし、何かあればオレがセバス様をお守りします。」
……チリン。
次の瞬間、セバス様を中心に風が巻き起こる。
風がグルグルと渦巻き、パッと消え、その後に炎の柱がゴウっと立つ。炎の柱を消すように、水が滝のように降り注ぎ、再び風が吹き水を吹き飛ばす。
静かになった部屋に光が降り注ぎ束の間の虹がかかった。
オレは全身に鳥肌がたっていた。
自分でやらせておいて、目の前で起こったことが信じられなかった。全てを無詠唱で行い、その順序も考えて使用したに違いない。
今のオレの一族にセバス様並の魔術師はいない、きっと国内、いや世界で探しても居ないだろう。
それほどの才能。それほどの魔力量。
オレが結界を張らなくても暴走などしなかったと思うが、万が一があれば、オレの結界など紙屑のようにあって無いようなものだっただろう。