俺の救世主、第一号。
おギャーって産まれて、母親と乳母の乳を飲んで、前世の分まで睡眠時間を取り返したか?ってぐらいの時間が過ぎた。
産まれたばかりの頃は耳に入る意味不明な言葉が頭の中で処理されてから日本語変換、って感じだったが今は違和感がない。
赤ん坊生活にも大分慣れたが、最近の俺の問題は体が自由に動かないこと、言葉を話せないこと、の2つだ。
まず、ケツがかぶれて物凄く痒い。
前世日本の高性能紙おむつがあれば良かったが、あいにくここは異世界。おしめは何で出来てるか解らんが、俺が見た感じ草にしか見えない。草にしか見えないが不思議ことに布おむつみたいな柔らかさ!
そんな、日本のアニメで見たオニギリを包んでる笹っぽいでかい草を、俺は下半身に装備している。
んで、時間がきたら可愛いメイドさんが交換にくるのさ!
何か俺の大事なものがガリガリと削られていきます。
しっかしどう考えても毎日同じ時間に尿意を催すのは無理だろ!
今のところ、それを伝える手段が俺にはないが。
あとは……腹が減ったとき。
どちらも赤子特権でギャン泣きすればいいんだろうが、前世35歳の記憶が影響して、ギャン泣きがなかなか出来ない。
ふぇっ……まではいけるんだけどな……大人になると軽々しく泣くことも出来なかったからな。今は体は赤ちゃんだけどな。
ふっ、と空気が変わった。
お?天井に兄ちゃんの隠密みたいな奴がいる。
俺は奴を心の中で勝手に忍者と呼んでる。兄ちゃんと一緒にいるけど姿は現さず、(俺には何故か視えてたが、他の家族は気づいてないようだった)良く天井裏とかにいた奴だ。兄ちゃんも勉強かなんだか知らんが忙しそうで、まだ数回しか会っていない。
その数回すらほとんど俺寝てたし。
後で知ったことだが、母が兄ちゃんの理想の弟像と俺があまりにも差がありすぎて、一緒にするのを控えていたらしい。
俺的には現実は早いうちに解らせたほうが良かったんじゃないかな、と。
忍者が一人でいるのを見るのが初めてだったのと、ちょうど暇で死にそうだったので。
忍者観察してみた。してみたけどさ…。
全身真っ黒な服。なに、あれ、怖い。アサシンじゃないか~い?
自分の突っ込みにちょっと笑った。
次の瞬間目の前には忍者。あれ?!どうやって降りて来たのさ!
やべ、アサシ~ンとか冗談だったんだけど、殺される?!
ごめ~ん!って笑って誤魔化していると忍者が近づいてきて……。
なんだか普通に挨拶された。この世界に産まれて初めて。
人間としてちゃんとした自己紹介。
なんだよ、忍者!めっちゃいい奴!!
ってか名前!!
ルが多すぎないか?!
大変失礼だが覚える気もあまりないので俺の中で忍者=ルーになった。ま、これからもよろしくな、ルー!
多分何時もより俺の顔面に変化があったんだと思う。忍者が目を見開いて固まっていた。
しばらく見ていると、正気に戻ったらしいルーが俺に鈴の様な物を握らせた。
なんだこりゃ。おいルー、赤ちゃんにこんな小さいもん渡して飲み込んじゃったらどうすんだよ?俺だから良かったものの……。
「セバスチャン様、今お渡ししましたのは魔法具の鈴。
心で鳴れと命じると音が出る品でございます。ご理解頂けたなら一度だけ鳴らして下さいますか?」
ま、マジでー?!
凄くな~い?!ルー、凄くな~い?!りょうか~い!!
チリンッ。
鳴りましたー!!
ルー、俺にも出来たよ!これなら……今までより意志の疎通が出来そうだ。俺はルーを見てもう一度、笑いながら鈴をならした。