母が子を解らなくなった理由。
第一子を出産し、夫婦なかも悪くございませんでした。
長男のアルベルトもすくすく育ち、次期公爵としての教育も始まり、ほっと一息ついた頃、二人目を身籠りました。
次男のセバスチャンは不思議な子供で、アルベルトのように夜泣きなどせず、全く手がかかりませんでした。もしかしたらこの子は一人でも生きて行けるんじゃないか……そんな馬鹿なことを考えてしまうほどに、赤子のころから不思議なことばかりしておりました。
お腹がすけば普通は泣いて知らせるでしょう。
しかしセバスはオモチャの鐘をチリンチリンと二回鳴らすのです。
最初は偶然かと思っておりました。夫も私も乳母も。
ですが、必ず二回鳴らすのです。
オムツの交換は三回。
それがずっと続けば、あぁ、この子は理解してやっているのかと皆気づきました。
3才になったセバスは唐突に執事になる、と私に告げました。
これが今でも理解できないのです。
何故使用人を従える側の人間が使用人になりたいなどと考えつくのか。しかも拙いながらも理屈のとおった説得をしてくるのです。
あぁ、私ではこの子を止められない……そう思い、夫に全てをまかせたのですが。
私はその事を死ぬまで後悔し続けるでしょう。