ヒュースガルディー・サズ・パルクルトの独白。
いつも僕は独りだった。
親を知らず、スラム街で人の物を盗みながら、1日1日を命懸けで生きていた。
仲間だと思った人間もいたが、皆、自分の命が危ないと、その時1番小さかった僕を囮にして逃げ出した。
他人など信じられず、だからといって自分1人の力だけでは生きて行けなかった。
いつしか僕は自分の感情を殺し、薄ら笑いを始終顔に張り付け、人間の中を泳ぐように生きていた。
笑顔を浮かべて、他人の意見を否定せずにハイハイと従っていれば、大抵のことは何とかなった。
その癖は、未だに治りそうにない。
何故生きていたのか。
苦しい毎日の中、何故自ら命を絶たなかったのか。
何度も命を絶とうとし、その都度恐怖で出来なかった。
僕は余りにも人の死を間近で見すぎていた。
そう、いつ終わるか解らない苦しみより、一瞬の死の恐怖によって、たまたま僕は生きていただけだったのだ。
故に生きる目標などあるはずもなく、流されるまま、ダラダラと生きていた。
パルクルト家に拾われてからも、僕のヘラヘラもダラダラも変わらなかった。
全てが、面白くなかった。
僕は変わらなくても生きていけたし、僕のやりたいことも見つからない。
衣食住に困らず、人並みの、いや、人並み以上の教育を受けられるようになったが、それだけだった。
知識や礼儀作法、戦闘訓練……様々なことが身についていった。
周りの、同じ様な境遇の子供達が、日毎に目をキラキラさせていくのに、僕の顔は相変わらず薄ら笑いを浮かべていた。
僕の頭は、自分が思っていた以上に優秀で、身体能力も優れていたようだ。そのせいか、同年代の奴らからは気味悪がられ、更に孤立したが、理由も解っていたので、どうする気も起きなかった。
僕が15才になった時、次期頭領にルーが選ばれた。
ルーは僕より3つ上の生真面目な男で、皆の様に僕を避けるでもなく、特別視することもなく、普通に接してくる唯一の人間だった。
ルーが選ばれた時、胸が少し温かくなった。
それが喜びという名の感情だったのだと、今の僕には、理解出来る。
あの日。
15才の、あの時。
僕はセバスに出逢い、初めて、世界が色づいて見えた。
毎日見ていた景色でさえ、不思議に溢れていて。
世界は、つまらないナニかではなくて、未知のナニかで埋め尽くされていて。
僕の見ていた世界はちっぽけで、小さすぎて。
目の前の、赤ちゃんなのに魔法を使う、変な生物を前にして、この日、僕は生まれ変わったのだった。