誰にだって失敗はある。赤ちゃんなら尚更。
……ハマった。
え~、空間を渡るのは難しいことですね。
俺は今、兄ちゃんの部屋の天井に生えてます。膝下がぴちっとね。
さながら海の底にはえてる磯巾着…いや、海草のように、俺は為す術もなく天井からゆらゆらと垂れ下がっていた。
眼下に、勉強してるっぽい兄ちゃんとルーが見える。ルーの顔色が心なしか悪く見えるのは天井にハマってしまった俺のせいか……。
闇魔法で体を包んでいるからか、兄ちゃんには気づかれていないようだ。
(ルー……助けてぇ~抜けないよ~)
チラッとこちらを見たルーに、心の中で助けを求める。
だんだん頭に血がのぼって目がチカチカしてきた。最近逆立ちなんてしてないからなぁ…。赤ちゃんだしな。俺の心の声が聴こえたのか、ルーが兄ちゃんに見えない位置で手をひょいっと動かした。
フヤっとした感覚に一瞬目を瞑ったが、ポスっとした感触で目を開いた。
俺の部屋の、俺のベッドの上に戻ったらしい。
やっぱりルーは凄いなー。しっかし一体何であーなったかね。原因が解らないうちは転移魔法は使わないほうが良いよな…今回もルーがいなきゃヤバかったしな。
なんて考え事してたらいつの間にかルーが立っていた。
俺の鳥肌も立った!
ルーの目が、目がヤバイ‼確実に殺る気だ‼俺?俺なのっ?!
あたふたと手足をバタつかせる俺の耳に、低い、ルーの声が……。
「セバス様……。」
「あ~っ‼(はいっ!)」
「死ぬ気ですかっ?!行ったこともない場所に転移などっ‼私がいてっ、気がついたから良かったなんて、そんな軽い気持ちでいらっしゃるかもしれませんが!あの一瞬でっ、足と顔が逆なら窒息も有り得たのですよ?!私自身が‼不審者と勘違いして攻撃を仕掛けた可能性もあるっ!……本当に、危険な真似をっ……‼」
「う~、あぅ~!」
俺は心から謝った。
考えなしに魔法を使ったこと。
何かあったときの後始末をルー頼みにしていたこと。
ちょっと異世界に産まれて、魔法が使えるからと、俺は確かに調子に乗っていたんだ。
ルー…本当にごめん、ごめんなさい。
俺はこの日、生まれて初めてギャン泣きしたのだった。