天使になった少女
最終話 天使になった少女
夢屋の少年がまず驚いたのは、彼女のその一言だった。
『天使になる事が出来ますか?』
彼はその意志であらゆる者を招き入れられるが、彼女は違かった。自らの意志で来た者を見たのはこれで二度目だった。その少女は夢屋の少年を見るなり天使になりたいと言ったのだ。
『それとも、もうすぐ死んでしまう私には無理ですか。』
彼女は病気。残り半年の命だと夢屋の少年は直に分かった。
「分かりました。又、明日ご来店下さい。」
そう言って彼女を返した。彼女は優しかった。その人間性なのか、夢屋の少年は彼女に好意を抱いた。
約束どうり、彼女は次の日も来た。
「あなた、病気なのに良くこんな所に来れますね・・・。」
彼女は笑った。
『いいんです。私はもう、十分に生きました。』
悲しそうな笑顔。その日も関係の無い会話で日が落ちた。彼女は明日も来ると言って店を出て行った。
『私。今日、クッキー焼いたんです。良かったら・・・。』
おいしかった。その一言で彼女は喜んでくれた。
『明日は海に行きませんか?』
この日は天気が良かった。波の音を背に彼女は自分の生い立ちなんかを話してくれた。何日か彼女はこの夢屋に通ってくれた。2ヶ月が過ぎた時、彼女は突然ここへ訪れなくなった。彼には何故かを直に理解できた。
病院の個室で横になる彼女は痩せていた。呼吸機を付け、腕には点滴が痛々しく繋がれていた。夢屋の少年は彼女が最初に店に訪れた時の言葉を思い出した。
『あ・・。夢屋の○○さん・・・。ごめんなさい、私もう駄目みたいなんです。』
笑顔だった。そんな彼女に夢屋の少年は二つのドアを用意し、言った。
「一つはあなたと同じ病気で苦しむ患者を助ける扉です。もう一つはあなた自身の病気を治す扉です。」
彼女は迷わなかった。
「いいんですか?何処の誰とも知らない人を助けてもあなたは助かりませんよ・・・。」
『いいんです。私の周りの人達は本当に優しかった。何も出来ない私をいつも助けてくれたの・・・。だから、今度は私が誰かを助ける番なんです・・・。』
迷い無く彼女は、最初の扉を選んだ。振り返る彼女は言った。
『ありがとう。でもね、私あなたの事・・・。』
その先は聞こえなかった。夢屋の少年はそんな彼女を見ながら言った。
「・・・よ・・良い・・夢を・・・。」
彼が始めて見せた涙だろう。そして彼が初めて恋をした相手でもあった。涙を拭うその腕はもうビショビショだった。
「あなたはもう既に天使ですよ・・・。僕の力なんか無くても・・・。」
彼の店。夢屋はあなたのすぐ近くにあります。あなたが望むのなら見つかるはず、彼に迷わず夢を打ち明けてください。あなたの力にきっとなってくれるはずです。