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夢屋  作者: 尚人
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解けないパズル

 

 第3話 解けないパズル


 

 何も無い空間に少女は一人で其処にいた。目の前にはフードをかぶった男は、少女にある物を渡した。渡されたそのパズルは黒かった。


「これを完成させたら、ここから出れるから。」


 そう言ってその男は何処かに行ってしまった。もはや少女にはその後姿をただ見ることしか出来なかった。それからだ、少女がそのパズルをやるようになったのは・・・。


「又、1ピース足りない・・・。」


 真っ黒なパズルの真ん中だけが空いていた。少女はそれを確認してそれを又、バラバラに崩すのであった。いつからだろう、少女がそれを数えなくなったのは。


上神友美かすがみともみさんですね。」


 振り返ると、其処に居たのは少年だった。


「おっと、これは失礼。私、夢屋のオーナーです。あなたの夢を叶えに来ました。」


 ガシャーン、ガラスのアンティークが音を立てて砕け散った。


「す・・・すみません。これ弁償させてください。」


 ペコペコ頭を下げるこの男は長井智成ながいともなりである。


「いえいえ、それより怪我はありませんか?」


 智成が彼に抱いた第一印象はいい人だった。


「それより、あなたの夢は何でしょう?叶えますよ。」


 オーナーの少年は、彼が壊したアンティークの破片を片付けながら言った。


「もう一度、もう一度。彼女に会いたい。もう一度、彼女に合わせてください。彼女の夢を見せて下さい。


「ええいいですよ。」


 彼の顔に笑顔が戻った。


 別に彼らは悪人では無い。どちらかと言うと今までの人生では善人に近いだろう。特に彼、智成は老婆の手を引き横断歩道を渡るなど周りからの印象はいいものだった。全くの偶然だった。そう、運の悪い偶然。突っ込んで来た車の運転手も無論、悪人ではなかった。働きづめの運転手はちょっとしたハンドルミスで彼女を襲ってしまった。

 友美の容体は深刻だった。奇跡的にその命が助かったものの、彼女が目覚める事は無かった。体は機械に繋がれ、彼女の命はその機械によって支えられていた。いわゆる植物状態であった。そんな彼女の所に智成は毎日の様に通った。成り立たない会話で彼女が目覚めたらどれだけ嬉しい事か、だが彼の願いは叶わなかった。

 帰りの途中たまたま見つけたこの店に吸い込まれるように彼は中へと入って行った。


「友美。友美なのか?」


「智成さんなの?」


 二人はその真っ暗な空間の中で出合った。二人はお互いを強く抱きしめた、力いっぱいその再開を噛み締めた。


「勝手な事をしてもらっては困るな、夢屋・・・。」


 あのフードの男だった。震える友美をこれでもかと智成は彼女の体を抱きしめた。


「これはこれは、案内屋。勝手な事とは?」


「その女はまだそのパズルを完成させていない。ここから出すわけには行かない。」


 智成は彼女が居た場所を見ると其処には真ん中が空いたパズルがあった。


「1ピース無いの・・・。完成しないのよ・・・。」


 ふふとフードの男は不気味に笑った。


「おや、そんな事でしたか、それなら心配ないでしょう。智成さんポケットを見てみて下さい。」


 智成は言われるままに自分のポケットをあさった。何かが手に当たった。パズルだ、彼が出したパズルは真っ白だった。それを優しく友美に渡した。それを彼女は真ん中に埋め込んだ。


「出来た・・・。出来たよ、智成。」


 笑顔の彼女を見て、フードの男は何だか呆れていた。いや、これは彼女では無く夢屋の少年へだった。


「お前も甘くなったな。でもこれで俺もやっと仕事が終わったよ、さっさと帰って寝るわ。」


 じゃっと夢屋に手を上げ彼は又、その闇の中へと消えていった。


「ありがとうございます。」


「いえ、では報酬を貰いますよ。」


「はい。私の命でしたよね・・・。」


 えっと友美は智成の顔も見た。彼もまた、彼女の顔を見つめた。


「君が幸せになるなら、何でもするよ・・・。」


 彼の言葉に涙した。


「いえ、そう思ったのですが、今回は違うものを貰います。」


 夢屋の少年は智成を見たあと、今度は友美を指差し言った。


「実は智成さん、あなたが壊したアンティークあれお気に入りでしてね。友美さん、あなたのポケットのそれ、もらえますかね?」


 智成が見つめる中、友美は自分のポケットの中に手を入れた。出したそれは、まぎれもなく智成が落として割ってしまったアンティークだった。それを夢屋に手渡しで渡すと夢屋はニッコリ笑顔を見せて言った。


「毎度ありがとうございます。それとあなた方が見つけられたパズルの1ピース、大事にしてくださいね。それでは、良い夢を・・・。」


 自分の名前が呼ばれた、そんあ気がした。智成が目覚めると其処は病院の一室。目の前には友美が目に涙を浮かべ其処に居た。


「あれは夢だったのかな?」


 不思議そうな顔をした智成に友美は首を振った。彼女が差し出した手の中に、あの真っ白なパズルのピースがあった。そして彼女は言った。


  −ありがとうー

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