五人の名探偵(PART1)
北海道、札幌。
大通公園近くのコンビニで一人の店員がレジを打っている。
「ありがとうございました」
店員の名前は高萩剣、21歳。
このコンビニでまだ三ヶ月ほどしか働いてはいないが、
真面目な勤務対応から店長からの信頼は高かった。
白い1979年式のBMW・635csiが
外の駐車場に止まった。
二人組の男女が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
二十代と思われる白人二人組だった。
男の方が剣の顔を見る。
しばらく剣を睨むと、何も言わずに棚からポテトチップやレッドブルなどを取り出すと
剣の前にそれらを並べた。
「900円になります」
剣が言うと、女の方が
「ロスマンズをもらいたいわ」
流暢な日本語で剣に語りかけた。
「ロスマンズってのはタバコですよね?
申し訳ありませんが当店では取り扱っておりません」
「そう、ならいいわ」
会計を済ませると二人はBMWを走らせていった。
「随分日本語が上手いな……
日本滞在歴が長いんだろうな」
剣はそう思った。
午後十時、剣はバスに乗って家へと帰っていった。
自宅アパートの駐車場に、さっきのBMWが止まっているのに
剣は気づいた。
「近くに住んでいるのか?」
自宅の鍵を開け、部屋に入ると
ソファの上にさっきの外国人カップルが座っていた。
「うわぁ! 泥棒か?」
剣が警察に連絡しようとすると、男がこういった。
「やめたほうがいい、我々は君に危害を加えない」
そういうと懐からH&K USP拳銃を向けてきた。
「噓つくなよ、ならその銃をしまえ」
剣が慌てながら叫ぶ。
「高萩剣さんね、ずっと探していたわ」
女が剣の前に立った。
「なんで知っているんだ?」
「あなたを必要とする組織からきたの、
我々と来てもらうわ」
女が剣の首元に立ち、首元を近くに置かれていた
灰皿で殴りつけた。
剣が倒れる。
剣が記憶を取り戻したのは翌日の朝だった。
車の後部座席に手錠をかけられて座らされていた。
「おい、これはどういう意味だ?」
剣が助手席の女に話しかける。
「着けば分かるわ」
剣の前に一軒の駅が見えた。
「神保町駅」
「お、おい、ここって……」
「東京、神保町だ」
車が古書店街へと入っていく。
そして車は、「シャーロキアン」という
古本屋の前で止まった。
手錠をかけられたまま剣は車から降ろされ、
古本屋の地下室に連れ込まれた。
「少し手荒なことをして申し訳なかったね、高萩剣くん」
五十代と思われる白人の男がイスに縛られている剣の前に立つ。
「何でオレをこんなところに連れ出したんだ?
何が目的なんだ?」
「おい、局長に失礼だろ!」
剣を連れ出した男が怒鳴りつける。
「いいんだよ、失礼なことをしてしまったんだ、
怒るのも無理はないさ」
「質問に答えろよ、おっさん」
「あぁ、そうだったね
実はここに君に来てもらったのは他でもない」
「来たんじゃない、無理やり連れられたんだ」
「君に我々とともに働いてもらおうと思うんだ」
「え……」
剣が言葉を失った。