森崎深子のこれまで
年の差だったら女が年上なのがいいです。という気持ちをこめて書きます。
森崎 深子が高校生のときのことだった。きっかけは、友人の弟だったという。妙に彼女になついた小学生の少年はあまりに愛らしく、深子は一気に心奪われた。それ以来少年、特に小学生の男の子を見るたびに彼女の胸は高鳴り、彼らと仲良くしたい、彼らを愛でたいと思うようになった。
大学生になったときに、深子は同級生に告白されて付き合ったことがある。彼女自身、自分の嗜好がおかしいのではないかと思う節があったようだ。しかしどうにもうまくいかず、何かと求めてくる男より、かわいらしい少年におねだりされるほうがいいと考えてしまっていた。もちろん犯罪につながるような欲求はない。彼女にはもともと性欲が少なかったようで、それが男性との付き合いを遠ざける遠因にもなっていた。当然短い付き合いで破局。小学生向けの塾の講師のアルバイトを始め、いっそう深子は少年たちを愛すようになった。
気がつけばいつの間にか、深子は友人たちから「ショタコン」と呼ばれるようになってしまっていた。
正太郎コンプレックス。とあるマンガの主人公の名前からとられ、彼女のように少年に愛情や執着を抱く者のことをいう。類義語の「ロリコン」と双璧をなし、今ではマンガやネットの中でもネタとして取り上げられたり、認知度は低くはない。ただそんな人物が現実にいると、性犯罪につながる可能性が高いせいか、単純に気持ち悪いと思われるのか、忌避されがちではある。
彼女もその不名誉と思われる称号を最初は嫌がった。同級生と付き合ったのも自分の趣味を否定するためだし、わざわざ小学校の通学路を経由していた毎日の通学も、ルートを変えて少年たちが目に入らないようにした。
けれど深子には否定しきれなかった。結局、彼女に少年を愛するなというほうが無理だったのだ。別に少年たちをどうこうしたいわけでもなし、ただ一緒に遊んだり懐かれたりすれば彼女は幸せなのだから、誰にも迷惑はかからない。
ついに開き直った深子は、最後にこう公言した。
ショタコンと呼ばれても構わない。ずっと少年だけを愛して生きていく!
そこで俺はつぶやく。姉の友人だった彼女が、小学生と遊んでいる姿を遠く見つめながら。
…じゃあ、高校生になった俺は、もうあなたの目には映らないんでしょうか。
柏木 章太郎。彼女の趣味を開花させた原因である少年は、今や高校生になっていた。