捕まった……
春火は縄でぐるぐる巻きになって縛られている。その姿でセリエアの部屋で座らされている春火は、セラシュ、セリエア、リミラの三人に囲まれていた。
「いきなり逃げようとするからです。あれは必要な拘束の措置でした」
「絶対必要以上の事をやっていたよ! 職権乱用レベルだって!」
セラシュと言い合いをしながらも、春火はここに集まっている三人の事を見据える。
「僕は絶対に諦めないからね」
セリエアとリミラの二人は小さく嘆息をした。
リミラはセリエアの事を見上げる。
セリエアは考える。この春火という少年を選んだのは間違いであったようだ。可憐な外見には見合わず、意地が張っている。
切れ長の目をさらに細めてセリエアは考える。この少年はどうするべきだろうか?
そこに、リミラが口を開く。
「セラシュ。今度逃げそうになったら教えてね。胸はセラシュに任せるけど、足の拘束はぼくにやらせてよ」
「何の相談だい? 胸とか足とか言い方がおかしいよ!」
そこにセリエアがその話に参加をする。
「足両方なんて贅沢ですよ。私は右足をいただきますからリミラ様は左足を」
「君らはバラバラ殺人犯かい!」
セリエアの部屋に、春火の喚き声が響いていった。
今、エリオンは散歩の時間である。太陽が南に差しかかる頃、両脇にバラの植えられた玉砂利を敷かれた道を歩いている。
エリオンの後ろを、城の給仕が歩く。
「平和なのはいいんだけど……」
エリオンは久々に平和な日々を過ごしていた。
普段は、セリエアから小言を言われ続けて心の休まる時がなかった。
その、セリエアの注意を引いてくれている春火という少年がいるからこそ、今の平穏があるのだ。
「やっぱり悪いよね……」
その春火の惨状は見るに堪えないものである。何度もセリエア達から弄ばれ、抵抗をしても軽くあしらわれて、また弄ばれる種になる。
エリオンは、いままで何もしないできた。何か、前に進んで出る事はない。発言には重い責任がまとわりつき、行動には重い結果が残る。
王子ともなれば、その効果も大きさは計り知れないものだ。
だから、エリオンは自分から行動をするのを怖がる。何かを言うのをためらう。
「だけど……」
これくらいの事だったらかまわない事だろう。そう思って、周囲に一つ指示を出そうと考えた。、
エリオンは、今回ばかりは春火を少しだけ休ませてあげようと思ったのだ。