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強くならないと

 この世界も、黄色く丸い月が夜空に浮かぶ。

 電灯はなく、明かりをつけようとすればランプや松明になる。煤の処理が面倒で、油なども安くは無い。それらを使ってまで夜に机仕事をしようと考える者はそうそういない。リミラだって、やっていなかった。

 カーテンを開き、ドアを開けると、ひんやりとした春の夜風が入り込んできた。

 高い天井。天井から吊り下げられたシャンデリア。全ての壁には大理石の一枚岩が張られていた。

 デザイン性の持たれた棚や、テーブル。その上に並べられている、ぬいぐるみの数々。

 綺麗で可憐な部屋とは、周囲の人間の評価である。

 夜になれば、綺麗さも可憐さも姿を潜め、闇の中で暗い色になったヌイグルミ達の存在など、リミラには何の慰めにもならなかった。

 石作りの部屋である。窓を開け、窓のさんに腰掛け、リミラはぼんやりと月を眺めていた。

 何もする気が起きない。

 何かに手をつける気が起きない。何かを口にする気も起きない。眠る気も起きない。ぼんやりと月を見つめているのが一番落ち着くのだ。

 何かを考えてしまうと、すぐにあのことが頭を過ぎる。意思を持たずにぼんやりとしているしかない。そのほかの事をするのは自分には辛すぎる。

 ぼうっとして月を眺めているしかないのだ。

 誰も止めなければ、リミラはいつまでもそうしていそうである。真夜中で物音一つ聞こえないなか、リミラの部屋のドアがノックされた。

 リミラがドアの方を、まるで、生気が抜けたようなゆっくりとした動作で見る。

 ドアを開けてきたのは春火だった。

「何かを忘れたいときにはお酒がいいよ」

 ワインのビンと、ワイングラス二つを持ち、リミラの部屋に入ってきたのだ。

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