剣を振る
これを見ると、エリオンは自分の未来を見ているような気持ちになる。
いくら時間が経ち、成長をしていっても、自分の中身は一度も使われたことのない、綺麗な剣のままだ。
この国の王になるのに必要とされるのは、使い込まれた無骨な剣である。
綺麗なままではいられない。血の汚れが付く事だってある。敵との戦いで、直しようのない傷が残る事だってある。
汚れたり割れたりして、あたらしい鞘に取り替える事もある。磨耗をしたり曲がったりして、新しい柄に取り替える事もある。
見た目は豪華で気品ある姿をしていても、刃は威圧的なほどに無骨でなければならない。
それが本当に必要とされるこの国の剣である。王の姿はそうでなければならない。
自分に与えられた剣である。この国の王である父から受け取ったものだ、受け取ってから一度も触ったことは無かった。
エリオンは剣の柄を握った。いつも訓練で使っている模造の剣とは重さが全然違う。
これは儀礼用の剣であり、実戦のために作られたものではない。知識がなく、その事を知らないエリオンは、その剣を持って鏡に向けて剣を構えた。
弱い自分。情けない自分。それを切り捨てるために、エリオンば剣を振り上げた。
騎士達が剣を振ると気持ちのいい、ヒュンッという音が鳴る。だが、自分の斬撃では、何も音が出ない。
何度も何度も剣を振る。あの滝では春火もそうしていたのだ。
春火に近づきたい。彼がどんな世界にいるかが見たい。春火がしていたように滝に打たれるのもいいかもしれない。
目に、初めて小さな熱意をたたえたエリオンは、一心不乱に剣を振り続けた。




