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使わない刃

 エリオンは、深夜に布団からムクリと起き上がり、月の光でぼんやりと照らされている自分の部屋を確認した。

「これじゃ護衛って言えないよ……」

 夜にエリオンの護衛に付いたのはセラシュであった。そのセラシュは剣を抱えながら、壁に背を預けてスヤスヤと寝息を立てている。

「昼間の事で、疲れているのかな……」

 春火との試合。時間にすれば数分のものであったはずだ。

 あの後のセラシュは、体から力が抜けたような感じであった。

『体力が落ちたわけではありません。ただ、うまく表現ができないのですが体の芯から力が抜けていくような感じがするのです』

 その状態を、セラシュはそう表現した。

 昼間には、すぐにぼうっ……としたり、椅子から立ち上がるのもおっくうそうだったりしていた。

 夜には寝ずの番をしなければならないのに、こうして眠ってしまっている。

「不思議な子だよね……春火君」

 何かエリオン達には見えない何かが見えているような感じがする。

 セラシュは一部に触れてしまったのではないか? 春火の見る世界というのは自分が見ているものとはまったく違うのではないか?

 春火はエリオンに向けて剣を振るように言った。

 剣を振って何が変わるのか? そんな事をしただけで世界が一変して、この世の全てが上手く動くようになるわけではない。

 だが、春火は、この世界にやってきてすぐにこの世界に溶け込み、上手く動いているのだ。

 自分はまったく政略の世界を理解することができなかった、

 だが春火はその世界で上手く動いている。剣を振れば、その春火に少しでも近づけるだろうか?

 エリオンは、セラシュを起こさないようにベッドをそっと起き出し、自分の部屋の隅にある、剣のところまで歩いていった。

 それは、うっすらと埃をかぶった剣だ。

 鞘にしまわれたまま、一度も抜かれたことはない。柄と鞘は、年季が入って色あせている。それがいい味を出していて、老兵が使い込んだ、立派な剣にも見えるだろう。だが、鞘から抜くと、おろし立ての綺麗な刃が見えてくる。

 一度も使われたことがないのは一目瞭然であった。

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