剣を振る
口を押さえながら、顔を青くして王宮の廊下を歩く春火の姿があった。
「紅茶ばっか飲んでお腹がタプタプだったんっだよなぁ……そういえば」
セラシュの体当たりは、ダイレクトにみぞおちに入っていた。
水腹に衝撃を当てられて、腹の中が逆流しそうな感覚がある。
辛そうな足取りで歩く春火の前に、エリオンが姿を出した。
「お疲れ様。見てたよ」
「それは、お粗末なものを見せてしまったね」
セラシュと春火の稽古を、セリエアの部屋の窓から見ていたエリオンは、いてもたってもいられなくなって、春火のところにやってきていた。
「それと……」
エリオンは言う。いざ対面してしまうと、何を聞けばいいのか分からない。
自分の中にある原因の分からない衝動に突き動かされてここまでやってきているエリオン。
春火は、エリオンが次の言葉を言うのを待った。エリオンは、今の自分に芽生えた衝動の正体を分からないでいる。
『そう……それなんだよ』
春火はエリオンの次の言葉を待ちながら、そう考えた。
机の上だけの勉強では分からない事もある。
もっと原始的な事。人間が持っており、いつも理性で押さえつけている感情を、自分の外に出せるようにならなきゃいけない。
「剣を持ってみなよ」
エリオンは面食らった。いきなり春火に言われた事。それは自分にとってまったく考えられないことである。
この自分が剣を持つなんて似合わない。どうせ強くなれないに決まっている。そう考えているのだ。
「剣を振るんだ。そうすれば、君に足りないものが少しづつ見えてくる」
春火自身、これは直感で言っているだけの事だ。
だが、これだけが、エリオンを変えるための、一つしかない可能性であるのだ。




