女の子になっちゃった
春火が目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。そこはヨーロッパの部屋のようであるが、知っているイメージとは何かが違う気がする。
屋根のついたベッドに寝かされていた春火は、質素なインテリアの並べられた部屋を一通り見回した。
そこには一人の少年と三人の女性がいる。
その中で、豊満な体つきで切れ長の目をした女性に背中を押された少年は、ぎこちなく春火に向けて挨拶を始めた。
「はじめまして……わが花嫁……これからよろしく……」
とぎれとぎれ。ぎこちなくて、身の入っていない言い方をして春火に行った彼。
春火は首をかしげた。
『わが花嫁』『これからよろしく』起きて見知らぬ場所に連れて来られている春火に、これらの事を理解するのは難しいだろう。
「君。自分の体を調べてみるといいよ」
髪を一つに束ねた女の子。リミラが笑いかけながら言う。
「調べるって言われても……」
何があるのか? 春火が下を向いた瞬間に、目に映ったのは、自分にはあるはずのないいおっぱいである。
「えええええええぇぇぇえ!」
あまりの事に驚く春火。
「あなたは我が国の魔法技術で女に生まれ変わりました。ここにおわします、エリオン王子の妃様として、あなたはこの世界で暮らして行く事になります」
「嫌だぁ!」
セリエアの言葉に即答で答えた春火。それにエリオンは、おずおずとしながらセリエアに言う。
「やっぱりこういう事はいけないって。すぐに元の世界に戻してあげないと……」
それに、セリエアは普段彼女がまったくしないような、笑顔を作ってエリオンに顔を近づけた。
「何を言っているのです?」
「……え……?」
「これまでずっとこの手の話からは逃げてきたではないですか。今度こそは観念をしていただきますよ」
「だけど……やり方が間違って……」
「指示を出したのはあなたです」
「無理矢理言わせたんじゃないか!」
「大事な事なので、二回言います。『指示を出したのはあなたです』分かりますか? 『この件の主犯はあなた』なんですよ」
脅迫するようにしてエリオンに言うセリエア。エリオンは、それでしゅん……と小さくなっていく。
「しかし、私よりも胸が大きいですね。羨ましいです」
剣を腰に釣っているセラシュが春火を見て言う。
春火は顔を赤くして反論する。
「女の人が、胸とか軽々しく言うんじゃない!」
「恥ずかしがっているところが可愛いですね胸の件は帳消しにしてあげます」
「だからぁ……」
自分の言った事がまったく伝わっていないのが分かり、力をなくして声がどんどん小さくなっていく春火。
「胸は下から掴みあげる事ができ、それでいて手からこぼれないくらいがちょうどいい大きさです。それに気づかないとは、あなたもまだまだですね」
「ちょっと待った! 何を嫌な事を言っているんだよ! すっごい怖気に襲われたよ!」
だが、セラシュの反応はリミラと一緒になってセリエアに向けて親指を立てて『グッド』のサインをする事だった。
「二人そろって何やってんの!」
春火が言うが、まったく効果が無い。
エリオンが言う。
「無駄だと思うよ。彼女ら全員レズなんだ……」
春火が一同を見上げ直す。
そうすると、彼女らの視線にねばっこいものがからみついているように感じられた。
目の奥に怪しい光を感じ取れる。自分のこめかみからねばついた脂汗が頬に流れるのを、春火は感じた。
「それでは、女同士で親睦を深めるために、お風呂にでも入りましょうか」
セリエアが言うと、リミラとセラシュも同調する。
「そうだねー。背中のあらいっこしようよ。なんなら前も一緒に洗ってあげるからさ」
「今日一日、初めての事ばかりでお疲れでしょう。暖かいお湯の中でマッサージなどするとよろしいですよ。私はおっぱいが好きですから、上半身の前側を念入りにしてあげますね」
「三人揃って恐ろしすぎるよ!」
セリエアとセラシュに両脇をつかまれ、まるで警察に連行をされるような形で、春火はずるずると風呂場まで連れて行かれてしまった。
「……がんばってね」
その後ろ姿を見ながら、エリオンは無責任に声をかけた。