春火。女の子になる
セリエアは自室に戻る。自室にはいくつもの調度品の数々が並べられていた。
雰囲気がよく、趣味のいいインテリアは、彼女自身の姿を映しているようである。
生まれも育ちも良く、才能にも恵まれた彼女は、王宮に仕えるこの国一番の魔術師として、周囲からの羨望を一身に受けているのだ。
「セリエア。お兄ちゃんの花嫁が決まったっていうのは本当なのかな?」
今は、自分の入れた紅茶を客人に振舞っているところだ。正面に座っているのはこの国の王女の一人、エリオンの妹であるリミラだ。
エリオンの教育係の魔術師であるセリエアは、エリオンの妹である、リミラの質問に顔を向けた。
渋い顔をしたセリエアはしぶしぶと言った感じで答える。
「エリオン様に選んでいただいた子を花嫁にする……と言ったほうが正しいでしょうね」
セリエアの様子を見て、リミラは幼い顔に不釣合いな苦い笑顔を見せる。
「ははは……お兄ちゃんに『選ばせた』子を『無理矢理あてがう』わけだ……」
「人聞きが悪いですよ……」
エリオンよりも二つ年下のリミラは、髪は頭の上に結い上げられており、幼い顔立ちに似合わず聡明である。
セリエアが言った言葉だけで、あの時のやり取りすべてが、見透かされたのだろう。
「どんな子なの?」
リミラがセリエアに聞くと、セリエアは隣の部屋を指差した。
ガラスで区切られた部屋に、魔法のための銀の飾台が置かれ、魔方陣が描かれた床がある。
その中心に一人の人間が寝かされていた。
「あの子。男の子だよね?」
異質な雰囲気を持つ部屋の中で、おだやかな寝顔を浮かべる少年は、異世界の衣服を着ていた。それはいわゆる男子用のブレザーだ。
セリエアの部屋の隅にかけられている王宮の正装であるドレスは、噂の花嫁のものであると思っていたリミラは、その二つを交互に見比べて首をかしげた。
「体のほうを服に合わせるのですよ」
セリエアは、隣の部屋に入っていき、飾台に火を灯した。
「離れてくださいリミラ様。この魔法にまき込まれたら大変な事になりますよ」
セリエアは部屋の外に行き、リミラもそれについていく。