シールズは、その時
シールズ・サイラーンは、普段なら自分が足を運ぶはずのない、使用人達の仕事場にいる。あくせく働く使用人達は、場違いな彼の事を横目で見た。
彼が、今回のエリオン王子の暗殺計画の容疑者であるという話は、使用人達の間でも有名になっているのだ。
シールズはその視線に気付きつつも、目当ての人間を探した。
シャルテ。田舎から城に奉公に来ている少女である。その姿を見つけると、シールズは声をかけていった。
「失礼。少し話があるのだけど」
少し警戒した様子のシャルテは、シールズの言葉に耳を貸した。
「セリエア様のお世話をしているのが君だと聞いてね。セリエア様の様子を聞いてみたいと思ったんだ」
シールズの事を警戒しているシャルテは、いぶかしんでいる。警戒して壁を作っているのが見て分かる様子で、すぐに返事を返した。
「いえ……私の口から言える事はなにもありません」
「まあ、小さなことでもいいんだよ。何もかも話してくれって言っているわけじゃない」
「そう言われましても……」
「そうだね……昨日の夕食はセリエア様は何を召し上がったんだい?」
「そんな事でよろしければ……」
シールズが聞いたのは、本当に些細な事だ。
食べた物は何か? 起きた時間は何時くらいか? 好きなお茶の種類は何か? これらが、セリエアの不利になるような情報とは思わないシャルテは、包み隠さずに話していった。
「こんな事を聞いて、どうするつもりですか?」
「セリエア様は僕の事をよく思っていないようだからね。今度何か贈ろうと思って」
「セリエア様は物につられるような人ではないと思います」
「賄賂ってわけじゃない。何か気持ちを見せるっていうのはとても重要な事だよ」
ニコリと笑うシールズ。それが、裏のある笑顔に見えなかったシャルテ。
もしかしたら、シールズは噂に聞くような人間ではないのかもしれない。
つい、そう思ってしまった。
「そういえば、君は田舎に病気の母親を持っていたんだよね」
シールズは、ビンを取り出した。
「その病気に効くはずだよ。いろいろ教えてもらったからそのお礼さ」
それは、シャルテが手に入る給金を使って、実家に送っている薬であった。
シャルテは、週に小さな紙包みに入る量しか買えない。せいぜい五グラムくらいの量である。切れないように、こまめに送っているのだ。
だが、そのビンには二百グラムの量が入っていた。これだけあれば当分の間もつはずである。
「それじゃあね。また頼むよ」
シャルテは、ビンを抱えてその場に立ちつくした。




