春火。召喚される
春火は、放課後には柔道の部活に顔を出す。今は、上級生の先輩相手とにらみ合っていた。
相手の方から春火に向けて掴みかかっていた。身長は頭一つ分くらい高い先輩を相手にしても、まったくひるまない。『柔よく剛を制す』という柔道の基本にのっとり、力の強い相手に対して俊敏な動作で懐に潜り込む。
春火は腕を掴んで、相手を投げ飛ばした。
一本背負いは見事に決まり、審判役の先輩は赤の旗を一斉に揚げる。
春火が一本を取って勝負が決まり、苦々しげな顔をしている先輩と、涼しい顔をしている春火はお互いに礼をしてコートを出ていった。
「ハル君すっごーい!」
そう言い、春火の後ろから飛びついてきた柔道部の女子部員は、春火の首元にしがみついた。
「やっぱすごいよね」
横合いからやってきて、春火の横腹をつつく女子部員と、春火の手を取って顔を赤らめる女子部員と、三人の女の子に囲まれた。
「うん。ありがとう」
春火はそれに笑顔を見せてお礼を返す。
この三人は春火のファンクラブのようなもので、春火の事を追って柔道部に入部までしてきた。
元々姉達に囲まれて育っており、女の子に対して拒否反応のまったく無い春火は、すぐに彼女らと、打ち解けていった。
他の部員達は、嫉妬の篭った視線でその様子を見ている。
「春火!」
柔道部の主将が声をかけてきた。
「今度は俺と試合をするぞ!」
「はい! よろしくお願いします!」
それに対して、すんなりと返事か返ってきたのが逆に気に入らない主将は、怒りで体をふるふると震わせながらコートに入っていく。
部活の後、取り巻きの女の子三人と一緒になって帰っていく春火の姿があった。
「あれから結局五人も抜いてったじゃない。本当にハル君って強いね」
「ありがとう」
春火は、笑顔を見せてお礼を返す。その笑顔を真正面から受け止めた女の子は、顔を赤く染めた。
「そうだ。リボンが曲がっているよ」
春火は彼女の首元のリボンを直す。春火がリボンを直す際、あごの下辺りに春火の指が当たってくすぐったくも暖かい感覚を感じる。
「ずるいー。私のリボンも直してー」
それを見ていた一人が、わざとリボンをずらして、春火に向けて首元を突き出した。
「自分でずらしているんじゃないか! 何で僕が直さなきゃ……」
「なら私はリボンを最初から結んでください」
もう一人の女の子は、リボンを外し、春火に顔を近づけていった。
「二人ともどうして!」
わけが分かっていない春火は、二人に詰め寄られながらも、後ろへと後ずさっていった。
そこで、いきなり春火の足元に光でできた魔法陣が現れた。
そして、春火は魔方陣から湧き上がってきた光に飲み込まれて、姿を消してしまった。