始まり
天井にシャンデリアがぶら下がっていて、ガラスでできた籠の中に火が灯っている。
豪華な装飾のなされた部屋。椅子もテーブルも気品を感じる装飾があり、壁にかかっている絵や、大理石の壁が高級な部屋である事を物語っている。
その部屋の中心に鏡のようなものが浮かんでおり、その中で日本の学校の様子が映し出されていた。
「エリオン様。どのような娘が好みなのですか?」
エリオンと呼ばれたのは、小柄な弱弱しい印象のある少年である。
そして、そのエリオンに質問をしたのは、今は無表情をしている女性である。彼女はりりしい顔立ちをしており、豊満な体つきで、熟れた大人の女の姿をしていた。
その彼女は、詰め寄るようにして、じっ……とエリオンに顔を近づけていった。
このエリオンは、とんでもない人見知りの激しさで、いままで女性に近づいたことがなかった。
今年で十四歳になるエリオンは、この国アレンファルドの次期国王として、世継ぎを作るという役目がある。王となって国務を継ぎ、時間がなくなってしまう前に女の一つでも覚えておかねばならない。
そして、それを教えるべき立場にいるのがその女性である。
切れ長で鋭い印象のある女性は、エリオンにさらに顔を近づける。
昔から、エリオンの教育をしてきた彼女に、エリオンはたまらずにあとずさりをした。エリオンは生来の気弱さから、まったくこの女性に逆らうことができなかったのだ。
「あなたは『この世界には自分の眼鏡にかなう女性はいない』と仰られました。ならばと思い、別の世界の様子をご覧いただいています『どの子が……お好み……でしょうか?』」
今、魔法の鏡の力を使って、別の世界の様子を二人で見ている。
ゆっくりとエリオンを威圧するようにして、にじりよりながら声をかける女性に対し、エリオンはたじろいで後ろにさがった。それでも、顔の距離を離さないように前に出て行く女性から逃げる事ができない。
「この子だ」
エリオンは苦し紛れに、適当な人物を指差した。
「この子は男の子ですよ」
「ああ……僕は男の子に興味があるんだ」
そう吐き捨てて、逃げるようにしてその場を去っていくエリオン。
部屋の扉を乱暴に閉め、この部屋から逃げていくのを背中で見ながら、彼女は顎に手を当てて考え出した。
(困ったものです……)
エリオンが男に興味があると言うのは、もちろん嘘であろう。
いつも、なんだかんだと難癖をつけて、女性関係の話から逃げ続けてきた。『気になる子はいない』『男の友達と一緒にいるほうが気楽でいい』この言葉などは何度も彼女は聞かされたものだ。
教育係で、エリオンに女を知ってもらわなければならない立場の彼女からすれば、どうしても、エリオンの事はねじ伏せねばならない。
『こうなれば……とことんまでやります……』
彼女なりの決意を固める。彼女はこの国の魔法使いに召集をかけた。