表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/121

いきなりピンチだよ

 王族専用の別荘地である山に行くには、断崖絶壁を切り出して作られた道を通らなければならない。

 エスカレーターのように、同じ場所を往復しながらどんどん上を目指していく形の道を、一台の馬車が登っていた。

 馬車の中にはエリオンと春火がいる。この道は、あまりの高さから下を見ると寒気が背筋を通るため、エリオンは嫌いであったが、春火はそれとは違うようで外の景色を見て気持ちよさそうにして目を細めていた。

「いい景色だね。風も気持ちいいし」

「そうかな……」

 春火を連れ出して別荘にまで行くと決めたはいいが、エリオンは春火と二人きりになってしまった。

 エリオンは、春火の横顔を見ると女の子の顔を感じた。

 男だった頃の春火の姿は、エリオンはほとんど知らない。優しい顔立ちに、無邪気さを感じる丸い目。触るとやわらかそうな頬に、女の子らしい細い首筋が見える。

 明るく人懐っこい女の子の雰囲気を発する春火の姿に、エリオンは見とれていた。

 春火の顔をこちらのほうを向く。景色を眺めるために細めていた目を丸くして、やわらかそうな唇から、春火が言葉を発した。

「どうしたんだい? 僕に何かあるのかい?」

 エリオンは春火の事をジロジロと見つめていたらしい事に気づく。

「なんでもないよ……」

 エリオンは目をふせて答える。

『かわいいって思ってたなんて言ったら、春火君は怒るよね……』

 エリオンはそう思った。

 春火は無理矢理この世界に連れてこられた。それも、自分の早嫁としてあてがわれるためである。

 春火は自分の事を恨んでもおかしくないだろう。

 自分は春火の前から姿を消すべきだろうと思う。春火に迷惑ばかりをかけている自分は、すぐにでも春火の前から消え去ろう。もうすぐ目的地に着く。エリオンは、着いたらすぐに春火には好きなところに行かせてあげようと思った。

「王族の別荘ってのはどんなところなんだい?」

「お金はかけているね。だけど、お金ばっかかけている趣味の悪い建物だよ」

「前評判が最悪だね」

 苦笑いをして答える春火。エリオンはそれに対して何と返せばいいか分からなかったが、とりあえず、用意していた言葉を伝える。

「そんな場所だけど、好きに動いてくれていいよ」

「おいおい。そんな所に僕を放り出す気かい? 案内くらいしてくれよ」

「僕と居たって楽しくないよ?」

 困ったようにして頬を掻く春火は言う。

「自分に自信を持ちなよ」

 エリオンはいきなり言われた言葉にキョトンとした。

「ごめん、意味が分からないよね。今の言葉は忘れてよ」

 春火は目を細めてエリオンの事を見た。見つめられるエリオンからすれば、この世界では珍しい春火の黒瞳が深い色であるように感じる。

 すいこまれそうな感覚を覚え、エリオンは春火の目を見つめ続けた。春火が不思議そうな顔をしてキョトンとするのにも気づかないほどであったのだ。

 そこで馬のいななきが聞こえて馬車が止まる。

「賊です! 囲まれました!」

 震えた声で御者が言う。春火が窓から外を見ると、数人の男がいる。

 エリオンと春火を乗せた馬車は、数人の盗賊に囲まれた。

 春火がエリオンを見ると、囲まれたのを知って馬車の隅で丸まって震えていた。

「エリオン! 何をやっているんだ! 早くなんとかしないと!」

 春火が肩を揺さぶってもエリオンは丸まったまま動かなかった。

「無理だよ……無理だって」

 エリオンが言う。御者の男もまったく同じような状況である。

 二人はパニックになっていて、まったく使い物になるようには見えない。

 春火は二人の事に見切りをつけると、馬車の扉をあけた。

「どうするのさ……」

 恐怖で震えて口が動かないのだろう。エリオンは小さな声で聞いてきた。

「こういう時こそ男を見せるものさ」

 柔和な顔つきをしているため、普段の春火はおとなしそうに見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ