外出しよう
春火の部屋は、カギがかけられていた。
物があまりない質素な部屋に、二人の姿があった。
部屋の隅で春火の事を監視するセラシュと、椅子に座って本を読んでいる春火。
「この世界の文字が読めるよ。これも魔法の力かい?」
「魔法の事は私はさっぱりです」
セラシュが春火の事を見据えるのに対し、春火は呑気にも見える様子で本を読んでいた。
「愛想がないね。もっと笑ってくれないかい?」
春火が言うのにセラシュは顔をむっとさせた。
「何のつもりですか? 逃げ出したかと思ったら急に落ち着きはらっていますね。何をたくらんでいます?」
「今逃げ出しても無理だろう?」
「だからってその態度は不審です」
それで会話をやめ、春火は本を閉じた。
「君だってなんか不自然だよ。なんかすっきりしない」
春火がセラシュの事を見つめる。その目には何かセラシュの事を見透かすような色が見えた。セラシュは思わず身構える。
自分の胸のうちを探られているようで、嫌な感覚を感じたのだ。
数秒の間、春火とセラシュは見つめ合った。
セラシュは睨むような目つきで。春火は見据えるような目つきで。
「君は固すぎるね」
そう言うと春火は不意に目を外した。嫌な感覚を覚えたセラシュは、手にじっとりとした脂汗がにじんでいるのを感じた。
そこに、部屋のドアがノックされた。
「私が出ます」
セラシュがそう言い、鍵を開けると、給仕の人間がセラシュに向けて礼をした。
「エリオン様からの伝言です。これから、妃様と外出をしますので準備をしていただきます」
「今、妃様は謹慎中です」
セラシュが言う。だが、事務的な口調で、給仕が答える。
「エリオン様からのご命令です。意見がある場合はエリオン様にお願いします」
エリオンとセラシュ。王子と騎士一人では、発言力がまったく違う。給仕の者はセラシュの言葉には耳を貸さず、春火の着替えをさせ始めた。




