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王子様の恋  作者: 来生尚
巫女という奇跡
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 戦の状況があまり良く無く、また北の土地の荒廃が激しくグリド男爵領を含むかなりの土地で生活に支障をきたしている。

 グリド男爵以外にも二人の男爵の領地が被害の大半を被っているのだが、領地を改領する必要も念頭に置きつつ調整を始めている。

 が、すべて後手後手といって過言ではないだろう。

 被害を出しているところが王都から一月ほどの場所にあることもあり、支援が行き届いているのか滞っているのかすら正確にはわからない。

 戦は戦で、南方の沿岸部がかなり焼かれている。

 他国との貿易量は多くは無いので問題は今のところ無いが、どちらかというと沿岸部に住まう者たちの日々の糧が水産物に多く依存していた為、船も家も焼かれたという状況で生活が立ち行かなくなっている者が多い。

 こちらもまた陸路では一月ほど掛かる場所になる為、支援が行き届いているとは言いがたい。

 伯爵領や侯爵領になっているので、北の男爵領よりは貴族たちが独自にも動いているので、餓死者が出るようなことはないだろう。

 しかし北も南もこういった状況では、どちらから手を打てばいいのだか。

 玉座ではなく祭宮の執務室で頭を悩ませていると、朗報がもたらされる。

「巫女が目覚めたようです」

 書類にサインをしている最中にルデアが耳元で囁く。

 そして一通の文書を目の前に差し出す。

 それが毎日滞りなく届けられる水竜の神殿の神官長からの文であることは一目でわかる。

 開封していないその内容を、恐らくルデアは伝令の者から聞いたのだろう。

「そうか」

 心から笑みが零れ落ちた。

 もう目覚めないのではないかという暗い想像を幾度した事だろう。

 今この瞬間に彼女の命の灯火が消えていこうとしているかもしれないと思うたび、胸が疼くのを押さえられなかった。

 ほっとしたのと同時に、一刻も早く彼女に会いたいという気持ちが募ってくる。

「都合を付けて水竜の神殿へ行く」

 神官長からの文をペーパーナイフで開封しながら告げると、ルデアの顔が曇る。

「殿下。今は国の一大事です。今王都から離れるのは得策ではありません。巫女様にお会いになる為に国を放り投げるおつもりですか」

 痛いところを突いてくるが、ルデアの言う事はもっともだ。

 彼女会いたさに王都を離れる事によって、どれだけの不利益が生じるか。

 既に兄王は俺に対しての棘を消し、俺に全幅の信頼を寄せている。今ここで王都を離れてしまったら、俺と兄王の間に楔を打たれることになりかねない。

 折角ここまで漕ぎつけたのに、元の木阿弥となっては意味が無い。

 彼女を犠牲にしてまで為そうとしたことを再びこの手で無にする事になりかねない。

「わかった。巫女様も目覚めたばかりで体調も未だ良いとは言えないだろう。普段の生活に支障がなくなった頃お伺いするとしよう」

「はい」

 無表情でルデアが頷いた。

 内心はほっとしているに違いない。ある程度俺がごねるところまで想定済みだったはずだ。

 が、俺はもう愚かな真似はしない。己の感情だけで動く事は止める。少なくとも玉座を兄上に譲り渡すまでは。

「神官長様には多忙につきお見舞いに伺えない事への侘びと、巫女様の体調がお会い出来るまでに回復出来たらご連絡頂けるよう返事を出しておく」

「畏まりました」

 一礼するとルデアはサインの終わった書類を抱えて自分の執務用の机へと下がっていく。

 優秀な事務官で片腕。

 言いにくいことも言ってくれるルデアがいるからこそ、一度立ち止まって考える事が出来る。本当にありがたい存在だ。

「ギー」

 一番末席に置かれた執務用の机からギーが立ち上がる。

 身分は一番高いのだが、近衛兵として侵入者や不審者から俺を守るのが主な仕事な為、席は扉に一番近いところになっている。

「将軍閣下へのお目通りの件はどのようになっている?」

「いつでも構わないということでしたが、日程調整はいかが致しましょう」

「……陛下に黙って会うと後で煩いな。まずは陛下のご意向を確認してからにしよう」

「畏まりました。では先方にはその旨伝えておきます」

「頼む」

 手短にギーに伝え、立ち上がる。

 蒼い衣ではなく、第三王子の正装に相応しいような金糸や銀糸をふんだんに使った豪奢な上着に袖を通すと、俺の意志を読んだルデアも立ち上がる。

 ポンポンっと書類の束を合わせ、文官の一人に手渡す。

 ギーは近衛兵として帯剣を許されている長剣を手に取り、ルデアは執務用の眼鏡を外す。

 言葉を交わさなくともお互いの意志は通じる。

「行くか」

「かしこまりました」

 二つの声が重なる。

 兄上への面会の許可を貰うためだけではなく、王宮内の執務をこなす為に、今では祭宮の執務室にいる時間のほうが少ない。

 ここに戻った時にはサインと印を押すだけの書類の山が待っている。

 祭宮の蔵を開けたのはいいのだが、配分をするのに領主一人一人に書状を書き、また蔵の出納帳の明細の一つ一つにサインを求められる。

 雑多な作業だが、必要な事だと自分に言い聞かせ、腱鞘炎になりそうな腕を叱咤激励し続けている。


「陛下」

 兄王の前まで進み出ると、兄は喜色満面の顔で俺を迎える。

 ちっと大臣が舌打ちをしたのが視界に入るが、気が付かないフリで兄王へと慇懃に頭を下げる。

 殊更丁寧に頭を下げる事により、兄王の機嫌は更に良くなる。

 どうやら礼の形で忠誠心を計っているようだ。あほらしい。

「お加減はいかがでしょうか」

 最近薬の副作用もあるようで体調があまり芳しくない兄王に声を掛けると、わかりやすく顔色を曇らせる。

 どうやら病人をアピールするつもりらしい。

「最近は食欲もあまりなく、起きているのも億劫な事が多いくらいだ」

「さようでございましたか。気付きませんで申し訳ございませんでした。ではしばらくお休みになられますか?」

「いや。大丈夫だ」

「では後程休憩の際には、奥にお飲み物や軽く摘めるものなどをご用意致します」

「……うむ。頼んだぞ」

 ぎらっと兄王の瞳が輝いたのを見過ごさなかった。

 俺が用意する「飲み物」は兄王には無くてはならないものだ。恐らくそれ欲しさに執務をし、そして適度なところで切り上げるつもりだろう。

 かなり中毒性がありますよと念を押されたその薬は、かなり有益な効果を出している。

 数ヶ月の間に、兄王はあれなしではいられないほどにまで堕ちた。

 一応完全に廃人にならないように適量は守っている。が、俺が予備にと渡した薬の減りも早いから、適量を超えている事は間違いない。

 しかし止めるつもりはない。

 幾万の民と巫女一人の命ではなく、幾万の民と一人の国王の命を天秤に掛けた時、王族としての矜持を持ち合わせない兄王の命のほうが軽いと判断したからだ。

 どちらにしても命を天秤に掛けなくては戦一つ止められないとは。情けない事だ。

 そういう事を口に出すと、ルデアに「情はもう結構ですよ」と言われる。

 甘いのは重々わかっている。

 それでも出来うる限り犠牲は少ない方が良い。失われる命も、流される血も、少なければ少ない方が良い。

 それが国を守る王族としての俺の選択。

 一刻も早く無益な戦に終わりを。そして国の復興に全力を投じる。

 舵取り役の王を兄上に担っていただく手立てが出来れば、俺の王弟としての責務は十二分に果たした事になるだろう。

 そのすべてが終わったら、本当に「祭宮」になろうと思う。国のあらゆる政から手を引いて。

 国の根幹を崩しかねないような賭けをしでかした俺には、為政者としての判断力が乏しい。故に死ぬまで玉座に座らなくていい。

 兄王の執務を玉座の一段下に置かれた椅子に座って眺めていると、兄王がこほんと咳払いをする。

 それは俺を呼ぶときの兄王の癖。

 癖と言うべきなのか? もしかしたら咳払い一つで意思疎通が出来るのだというアピールなのかもしれないな。一体誰に向けられているのか謎だが。

「いかがなさいましたか」

 椅子から立ち上がり、玉座の前に進み出ると、赤い絨毯のところで跪く近衛兵と目線がぶつかる。

 兄上の側近で、確か侯爵家の……。

 瞬き一つで、近衛兵は俺に合図をする。黙っているようにと。

「旗艦となっていた船の返還について、お前の意見を求めたい」

 ああ、完全に話を聞いていなかったのが裏目に出たな。

 少しくらい耳を傾けているべきだった。彼女が目を覚ましたことで頭が少々彼女よりに飛びすぎていたようだ。

「現在は船はどちらに?」

 近衛兵は沿岸部にある港の一つの名を上げる。

「ですが隣国からの攻撃も激しく、旗艦が敵軍の攻撃の目印となっており、港での防衛を迫られております。あれは将軍閣下が祭宮殿下からお借りした船だからと、中将殿が乗る事を断られておられます。このような戦の状況下において、血の穢れを付ける事になりかねんと」

 老将の気遣いが嬉しい。が、それにより船を守る事に戦力が割かれているのでは好ましい状況とは言えないな。

 しかし旗艦の撤退は敗北を意味する。

 修理の為といって王都に戻したとしても、自軍は撤退ムードになるだろうし、敵軍は勝利を確信するだろう。

 困ったな……。

 ふうっと溜息を吐き出して兄王を見つめる。

 俺の好きにしていいということだろう。ゆっくりと首を縦に振る。

 一つ、起死回生の案が無いわけではないのだが、それには兄上の承認を得る必要がある。

「……一度、王都に船を戻しましょう」

 ざわっと空気が動く。

 それでは負けを認めたようなものではないかという批判めいた声も耳に届く。

 だが、恐らくこれで間違っていないはずだ。

 いや。これしかないんだ。

「そして将軍閣下に再び戦地に赴いて頂きましょう」

「なんとっ」

 至近距離から批難の声があがる。

 兄上の側近で、船の件を兄王に進言に来た近衛兵。

 将軍である兄上の現状を、今この場にいる誰よりも知る近衛兵の批判めいた言葉に、大臣たちも色めき立つ。

「あまりにも無体な」

「将軍閣下の回復は未だ遠いというのに」

「公式の場にすらおいでになる事が難しい方に何という非情な」

「祭宮殿下は何を考えておられるのか」

「ご自分が戦場に出られないことへの腹いせか」

 いくつもの批判を聞き流し、兄王へと視線を向ける。

 お前の考えを聞かせてみろといわんばかりに、踏ん反りかえって肘掛に肩肘をついて俺を見下ろしている。

 さも面白そうなものを見るような顔つきで。

 薬で判断力が鈍っているというのに、こういう時に見せる顔は「王らしい」ものだ。

 王らしい懐の深さを伺いする事が出来る。決して批判をせず、意見を汲み取ってやろうとする態度に。

「意識不明の重体と流布されている者が意識を戻す事。それが既に奇跡ではないでしょうか」

 記憶の中の彼女と、戦地から戻った後一度も姿を見せていない兄上に思いを馳せる。

 共に回復すれば、それだけで奇跡。

「水竜という他国にはない神を持つ我が国の将軍たる方が、瀕死の重体の状態から奇跡的な回復を見せて再び戦地へ赴く。これがどれほど民や兵士たちの心を勇気付ける事でしょう」

「しかし閣下は」

 とても無理だと言いたげな近衛兵にわかっていると伝える為に頷き返す。

「兵士たちの士気を上げ、敵兵の士気を下げる。また旗艦を無駄に沈めない為に、そして無駄な兵力を割くことを止め敵軍に集中する為に、この策はかなり有効であると考えます」

 視線のあった兄王は、にやりと口を歪めるように笑う。

「が、将軍は起き上がる事も困難なのだぞ」

 その状態に追いやった者の余裕だろうか。しかしそれこそがこの国難に繋がっているという事を理解していないのだろうか。

 ふっと笑みを漏らすと、兄王の頬がぴくりと動く。

「ご本人が出なくてもいいではありませんか。船が着き、一通りの修繕を済ませた時に船にお乗りになられる状態まで回復しているのが良いかと思いますが」

「どういう意味だ」

「影武者でも何でも立てれば宜しいのです。背格好の似ている者を用意して、それらしく着飾って高所から民や兵に手を振るだけで十分です。ついでに上手い事将軍閣下の噂でも流布致しましょう。奇跡のような回復により、国の為に戦地に赴くと」

「ふうむ」

「それで足りなければ更に付け加えましょう。水竜様の御意志を汲み、大戦の早期勝利の為に決死の覚悟で戦地に赴くと」

「ふむ。悪くないな」

 にいっと口の両端を引き上げた兄王の表情から、これは了承と見ていいだろう。

「ですが一点だけ陛下にお願いがございます」

「何だ?」

「将軍閣下の現状を確認すべく、将軍閣下と面会する事をお許し頂けますでしょうか」

 一瞬口を噤んで眉を潜めた兄王だが、また人の悪い笑みを浮かべる。

「許す。ただあれが口を利ける状態とは思えないがな」

 くくっと笑った兄王に近衛兵が向けた視線は、殺意そのものだった。


「稚拙な策を弄しました」

 寝台に横たわったまま青褪めた顔をしている兄上に笑いかけると、兄上はふっと顔を緩ませる。

 起き上がろうとするのを片手で制し、少しずれた上掛けを再び兄上に掛けなおす。

「考えたな」

 擦れた細い声に、体調がかなり悪い事が窺い知れる。

 兄王が考えていたよりは回復しているようだ。元々鍛え上げた肉体を誇っていた兄上は、常人より多少回復が早いようだ。

「ええ。なかなか兄上にお会いする事が出来ず、見舞いに来るのが遅くなり申し訳ありません」

「いや。いいよ。お前も色々難しい立場だという事はわかっているからね」

 俺が兄王の犬呼ばわりされている事は兄上の耳にも届いているだろう。

 忠犬ぶりを発揮する為に、誰よりも長く床に額づく祭宮のこと。

 そしてここにいるかもしれない兄王の息の掛かった「耳」や「目」を警戒して、本音を吐露するのは難しいだろう。

 文官の一人に例の「闇」の青年を混ぜてある。

 もしも「耳」や「目」がいなければ、合図を送るようにと指示してあるが。

 ちらりと闇の青年に視線を送ると、ほんの僅かに首を左右に振る。それは即ちここに兄王の配下の者がいるということだ。

 ふうっと溜息を吐き出して、ぐるりと視界を巡らせる。

 近衛兵。侍女。文官。

 一体その中の誰が敵なのだろうか。俺には全くわかりはしない。

「すまないが、皆、席を外してくれ」

 これも事前に闇の青年と打ち合わせ済みだ。

 部屋の中に「耳」や「目」があるなら部屋から遠ざけてしまえば良い。

 不信感を露にした兄上配下の者たちに、こほんっと咳払いをする。

「水竜のご神託に関わる事だ。申し訳ないが王族以外に聞かせるわけにはいかない」

 嘘も方便とはこのことだろう。

 こう言ってしまえば拒絶する事は出来ないと踏んでいる。

 ちなみに天井裏は息の掛かった「闇」以外は事前に追い出すように手筈は取ってある。

 あからさまな敵意を感じなくはないが、さらりと受け流して兄上へと視線を移す。

「数分で結構ですのでお時間をいただけますか」

「……構わないよ。祭宮」

「重ね重ねご無理をご承知いただき、ありがとうございます」

 兄上が了承したのならば、誰も拒む事は出来ない。

 すべての者が退室し足音が遠のいていくのを感じ、ほっと息を吐き出す。

「ご無事でよかった。兄上」

 眠る兄上に声を掛けると、兄上の顔も綻ぶ。

「随分と上手く立ち回るようになったね」

 聞きようによっては批判にも取れるような言葉だが、兄王の目は穏やかだ。目を細め、まるで成長を喜ぶかのような顔をしている。

 言葉に棘を残すことによって、周囲にいるであろう「耳」に対し言質を取られないようにしているのだろう。

「どうでしょう。役者としてはまだまだだと叱咤激励されているところですよ」

 くすりと笑みを漏らす俺を兄上はふっと鼻で笑う。

 恐らく病床にあっても、情報収集に余念が無いのだろう。だからこそ、兄上の配下の者たちは以前よりも俺に対して警戒心を強めているのだ。

 部屋の中にいた近衛兵の数だけでも、その警戒ぶりが窺える。こちらは単身乗り込んできたというのに。

「で、どんな役を演じるつもりかな。祭宮」

「幕を引く者です。汚れ仕事はすべて俺が担います。兄上、全て終わらせましょう」

「……どういう意味だ」

「文字通り、兄上には皇太弟としての役割を果たして頂きたいと思っております」

「お前の担ぐ神輿になれと?」

「はい。後に面倒になる前にお伝えしておきます。俺は玉座には一切の興味がありません。俺が欲しいのはたった一つ。祭宮の地位だけです」

 ふーっと溜息を吐き出した兄上が笑みを貼り付けたまま俺を見る。

「だから俺に代わりになれと?」

「ええ。思慮も覚悟も足りなくて、情味にだけは溢れているというのが部下たちの俺に対する評価で、俺自身も自分が為政者に向かないと知っております。この国を兄上にお任せしたい」

「……闇さえも掌握し、陛下を傀儡とし、己が裁量で国を動かしているお前が言うか。それを」

 買いかぶりですよと言おうと口を開きかけて止めた。

 それは真実だ。

 どこで兄上が気付いたのかわからないが、俺が全く「耳」を気にしていないことにも勘付き、そして今の王宮内の情勢を鑑みれば、そのような結論を出すことは容易い。

 全て知っているのだと、ある意味では揺さぶりをかけてきたわけだ。

 だがそれには気が付かないフリをして嫣然と笑みを返す。

「俺は兄上には適いません。だからそれでいいのですよ」

 ごくりと兄上の喉が上下に動いた。

 瞬間的に感じた。

 本当は兄上もまた玉座を欲しているのだと。

「何故だ」

 疑いを含んだ問い掛けに、笑みを消して真顔に戻す。

 問いに答えるのにはたった一つだけの事実を伝えれば良い。

「ほんの少し前、一度この国を転覆させかけました。巫女をこの手で殺そうとしたのです。だから王に相応しくないのです」

「巫女を?」

「はい。幸い意識は取り戻したようですがね」

 眉を潜め、兄上は咎めるように「何があった」と口を開いた。

「神託を無理やり手に入れようとしたのです。結果巫女を瀕死に追いやりました」

 真実を隠し事実だけを述べると、兄上からは深い溜息が漏れた。

「戦を止めたかったのです。水竜のご神託で。ま、無理だったんですけれどね」

 鷹揚に笑う俺をしかめ面で眺める兄上に、どこまで俺の真意が伝わっているのだろうか。兄上さえも謀る必要がある。玉座に自ら座らない為に。

 巫女を殺そうとした祭宮。

 なんて血なまぐさいフレーズなのだろう。既に「王の犬」という捻りの足りない揶揄ならされている。

 これから王殺しの異名まで付けられる予定なのだ。どこまでもどこまでも、俺の悪名が轟く方が都合が良い。

 王に相応しくない者。誰もがそう認識するように。

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