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鏡の中の戦争

作者: 石山ウルマ

深夜の斥候に出されて、仲間の兵隊とはぐれてしまった。

一晩中、闇の森や草原を歩き回った。


いつ敵兵と突発的に出会うか解らない恐怖。

近くに敵が待ち伏せされているかも知れない、想像してしまう恐怖。

もう二度と本隊へは戻れないだろうと、確信的な恐怖。

最前線での恐怖なんか、どんな時も尽きることのない、そんな恐怖。


無駄に歩き回って、へとへとに疲れきって夜が明けた。

水筒はとうに空だった。

葦の草原を抜けると幅の広い河が見えた。

かつてはこの河が国境だった。

今は自国の支配下なのか、隣国のものなのか俺にはわからない。

半分ずつでいいじゃないかと思う。

そうも行かないのが戦争だ。


河が見えたら、無性に水が飲みたくなった。

俺が今いる葦の草原からその河までの間には、小石ばかりの川原がある。

その距離はおよそ30m。

中途半端だな。

5m位なら悩まず水辺に走るし、50mなら諦めた。

とっさの時に身を隠す場所が欲しい。何も無い。

中途半端な30m。


葦の草原から首を伸ばして、目線だけをレーダーのように回転させた。

見渡す限り、葦と河までは同じ様な距離の風景。

たとえば水辺まで30mの距離を、一気に走って水を飲んで引き返す。

往復で60mか。諦めよう、この距離も恐怖。


河と平行に葦の草原を暫く歩いた。

すると河ぎわに大きな石が見えた。

その石の大きさはやっと一人が身を隠せるほどの大きさだった。

しかし、それは俺にとっては充分な大きさだった。

一瞬ためらったが、恐怖を払いのけて一気にその大石を目掛けて走り出していた。


大石まで、ほぼ中間地点まで走ったころだった。

一人の敵兵が、河に向かって走って来るのが見えた。

俺と同じように、河に向かって走っている。

見方によっては河を目掛けて走っているのではなく

俺に向かって走っているようにも見えた。


引き返せば敵兵に背中を見せて走ることになる。

簡単に射殺されるだろう。

銃を構える余裕もなく、俺は大石目掛けて懸命に走った。

敵兵だって、この広い河は渡っては来られない。


最後はつんのめるようにして大石に辿り着いた。

すかさず大石から首を最小限に伸ばして、敵兵の姿を探した。

河の向こうの大石に、身を潜めているのが鉄兜の動きでわかった。


良かった、殺されずにすんだ。敵もどうやら一人らしい。

先ずは荒れた呼吸を整える。

でも喜んでいる場合か?これじゃあ、お互いに一歩も動けない。

水辺まではあと僅か、でも水に手が届く距離ではない。


自分の鉄兜を脱いで、靴紐をと解いて、鉄兜の顎紐に結ぶ。

簡単な井戸の『つるべ』だ。

その紐の端をしっかり握って、鉄兜を水辺に向かって投げた。

鉄兜の中にほんの少しの水が入った。

それを慎重に手繰り寄せていると、敵兵も同じ事をやっていた。


今、銃に持ち換えれば撃ち殺せるかもしれない。

でも止めた。

死ぬほど水が飲みたかったのだ。

あいつだって同じだろう。

俺を撃ちそうな仕種は微塵もない。


でも、撃つなら今しかない。

俺はとっさに銃を取り無我夢中で引鉄を引いた。

「そんな事、よせば良いのに」

俺はそれを自分に言ったのか、敵に言ったのか?

俺たちは倒れた。






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― 新着の感想 ―
[一言] これはすごい! 文章が研ぎ澄まされていてとても好きです。 どの作品でも無駄な言葉がないですね。 感心するばかりです。ありがとうございました。
2010/12/28 14:50 退会済み
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