8話 神、天才扱いされる
ゴブリン襲撃の数日後。
村にはまだその話が残っていた。
「ガルドが全部倒したんだろ?」
「いや、石が飛んできたって話だぞ」
「そんな魔法あるのか?」
村人たちは首を傾げていた。
その原因を作った本人は――
庭で草をいじっていた。
(この草、魔力を吸うのか)
ルクスは興味深そうに観察していた。
神にとって世界はすべて研究対象だ。
虫。
石。
植物。
全部面白い。
「ルクスー」
母親の声がする。
「こっちおいで」
ルクスはとてとて歩いていく。
そこには村長と、王立魔法学院の女性がいた。
女性は少し困った顔をしていた。
「やっぱり気になるんです」
村長に言う。
「この子の魔力」
村長は頷いた。
「わしも同じ意見です」
女性はルクスを見る。
小さな子供。
まだ三歳にもなっていない。
だが――
感じる魔力量が異常だった。
「もう一度だけ測らせてください」
女性は新しい水晶を取り出した。
今度は学院の正式な測定器。
かなり頑丈だ。
「ルクスくん」
優しく言う。
「ここ触れるだけでいいよ」
ルクスは水晶を見た。
(またか)
神は少し困った。
全力なら当然壊れる。
少しでも多すぎる。
(どのくらいにするか)
人間基準の魔力。
計算する。
(……このくらいか)
ルクスは手を置いた。
水晶が光る。
最初は弱く。
次に強く。
さらに強く。
そして――
ピタッと止まった。
測定器の数値が表示される。
女性がそれを見た。
「……」
沈黙。
村長が聞く。
「どうでした?」
女性は震えていた。
「これは」
「学院でも」
「滅多に出ません」
村長が息を飲む。
「どれくらいですか」
女性は言った。
「王都の上級魔法師クラスです」
まだ幼児なのに。
ありえない。
村長はルクスを見た。
ルクスは普通に指を舐めていた。
「ばぶ」
完全に子供だった。
だが村長は確信した。
(この子は……)
この村に収まる存在ではない。
⸻
その日の夜。
村長と女性は家の外で話していた。
「この子は王都に」
女性が言う。
「連れていくべきです」
だが村長は首を振った。
「まだ早い」
「え?」
「まだ幼い」
村長は静かに言う。
「せめて」
「八歳くらいまでは村で育てましょう」
女性は考えた。
確かに。
魔法学院の入学年齢もその頃だ。
「……わかりました」
女性は頷く。
「八歳になったら」
「必ず学院へ」
村長も頷いた。
「約束しましょう」
⸻
その会話を。
屋根の上で聞いている存在がいた。
旅人の青年。
この世界の神だった。
『八歳か』
青年は笑う。
『結構先だね』
その隣に、ルクスが現れる。
もちろん肉体ではない。
神としての意識だ。
(時間なんていくらでもある)
ルクスは言う。
(観光なんだ)
(ゆっくりするさ)
青年は楽しそうだった。
『その間に』
『色々イベントが起きるよ』
(例えば?)
青年は指を折る。
『ダンジョン』
『王族』
『魔王軍』
そしてニヤリと笑った。
『あと』
『転生者』
ルクスは少し笑った。
(それは楽しそうだ)
『だろ?』
青年は空を見上げる。
『君が八歳になる頃』
『世界は結構面白いことになってる』
ルクスも空を見た。
(それまで)
(この村で遊ぶか)
⸻
その頃。
村の森の奥。
誰かがいた。
黒いローブの男。
そしてその目は赤かった。
「……魔力の反応」
男は呟く。
「こんな田舎に」
手には黒い魔石。
そこに魔力が流れている。
男は笑った。
「見つけた」
そして小さく言った。
「面白い魂がいるな」
その視線の先は――
ルクスのいる村。
まだ誰も知らない。
この小さな村に今。
別の世界から来た存在が近づいていることを。




