6話 神、スカウトされる
ゴブリン襲撃から三日後。
村の入口に、一台の馬車が止まっていた。
豪華な装飾。
青い紋章。
そして護衛の騎士。
小さな村には似合わない光景だった。
「王都の馬車だ……」
村人たちがざわつく。
馬車から降りてきたのは、一人の女性だった。
長い黒髪。
青いローブ。
胸元には銀色の徽章。
それはこの国で魔法を学ぶ者なら誰でも知っている印。
王立魔法学院。
村長が慌てて出てきた。
「これはこれは、こんな村に何用でしょうか」
女性は周囲を見渡し、静かに言った。
「最近、この周辺で妙な魔力現象が起きていると聞きました」
村人たちは顔を見合わせる。
嵐。
ゴブリン襲撃。
確かに不自然だった。
女性は続けた。
「学院では、魔力異常の原因を調査しています」
そして村長を見る。
「この村でも何かありましたね?」
村長は少し考えた。
そして――
ルクスの顔を思い出す。
(……言うべきか)
数秒。
沈黙。
だが結局、村長は言わなかった。
「特に大きなことは」
「そうですか」
女性は少し不思議そうだったが、それ以上追及しなかった。
その時だった。
「ばぶ」
後ろから声がした。
ルクスだった。
母親に抱かれている。
女性の目が一瞬だけ止まった。
(……?)
魔力。
感じる。
しかも――
異常な量。
「その子は?」
母親が笑った。
「うちのルクスです」
女性は近づいた。
しゃがみこむ。
そしてルクスを見る。
数秒。
沈黙。
次の瞬間。
「……嘘でしょ」
思わず呟いた。
魔力量が。
子供のレベルじゃない。
いや。
成人の魔法使いでもここまでない。
その時。
ルクスが空を見上げた。
(ん?)
神は気づいた。
空の向こう。
世界の外側。
視線。
(あー)
神は理解した。
(見つかったか)
この世界の神だ。
さすがにあれだけ魔力を動かせば気づく。
だが神は焦らなかった。
(まあいい)
むしろ少し楽しみだった。
その瞬間。
村の広場に。
一人の男が現れた。
誰も気づかなかった。
まるで最初からそこにいたかのように。
黒髪。
旅人の服。
年齢は二十代くらい。
ただの青年に見える。
だが。
ルクスはすぐわかった。
(お)
神は思った。
(来たな)
その青年もルクスを見ていた。
そして。
小さく笑った。
その瞬間。
ルクスの頭の中に声が響く。
『君』
神同士の会話。
言葉ではない。
意識の通信。
『この世界の住人ではないね』
ルクスは笑った。
(観光中なんだ)
青年は目を細めた。
『……観光?』
(ああ)
ルクスは普通に答える。
(君の世界、なかなか面白い)
数秒。
沈黙。
そして青年は――
吹き出した。
『はははは!』
いきなり笑い出した。
村人たちは驚いた。
「どうしたんだあの人?」
青年は涙を拭いた。
『いや、面白い』
そして言った。
『君みたいな神は初めて見た』
ルクスは肩をすくめる。
(そっちこそ)
(普通、他神の世界に入ったら怒るだろ)
青年は首を振った。
『いや』
『むしろ歓迎するよ』
そして言った。
『僕の世界を楽しんでくれるならね』
その言葉に、ルクスは少し驚いた。
(いいのか?)
『もちろん』
青年は笑う。
『ただし一つ条件がある』
(なんだ?)
青年は言った。
『この世界、結構危険なんだ』
そして。
少し楽しそうに続けた。
『だから君がどこまでやれるのか』
『見せてもらおうかな』
ルクスは笑った。
(いいだろう)
(観光なんだ)
(イベントが多い方が楽しい)
こうして――
二柱の神は出会った。
だが村人たちはまだ知らない。
この小さな村に今。
神が二人いることを。




