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第4話『粘りと色』

宵薬房の戸口に立つと、潮風が微かに香る。夕暮れ前の港は、木箱を運ぶ音や遠くの波音が混ざり、穏やかでありながら、どこか不穏な空気を漂わせていた。私は棚の硝子瓶に光を通し、色と粘度を確かめる。小さな違和感が、今日も事件の手掛かりになる。


「紗夜さん、急ぎの案件です」

芹沢直が戸口に立ち、息を切らせていた。

「どうしたの?」

「港の茶屋で、また中毒の疑いが出ました。被害者は昨夜の屋台と同じ商会の取引先です」


私は静かに頷き、薬箱を抱えて港へ向かう。来栖海斗も先に桟橋で待っていた。

「紗夜、ここで確認してくれ」

彼の指差す先には、昨日の改ざん薬材と同じ匂いを放つ茶袋がいくつか積まれていた。微妙に色が違い、触るとわずかに粘りがある。これは天然の茶葉ではありえない。


「色、匂い、触感……すべてが人工的。港に流れる外来薬材の改ざんは、確実に進行しているわね」

私は茶袋を慎重に開け、粉末を取り出す。顕微鏡代わりの指先が微細な粒子の異質さを告げる。

「これを調べれば、黒帆会の関与がさらに鮮明になるはず」


赤尾結も静かに背後から現れた。

「紗夜さん、港の商会も知らない部分があります。この袋は、意図的に混入された痕跡がある……つまり、内部に協力者がいる可能性が高い」

「なるほど……内部協力者か」私は唇を噛む。港町の闇は、一層複雑になっている。


海斗が眉をひそめる。

「俺たち、どこまで追えるんだろうな……」

「焦らないこと。小さな痕跡の積み重ねが、真実への道になる」私は茶袋を抱き、硝子瓶の棚を思い浮かべた。そこには、すべての証拠と、少しずつ見えてくる港の闇の輪郭が映る。


夜、宵薬房に戻ると、潮風に混ざって港の灯りが揺れていた。私は瓶を並べ、顕微鏡代わりに細かく観察する。

「黒帆会……次に見つけるのは、隠された倉庫と、その中の改ざん薬材」

赤尾結が静かに頷く。

「紗夜さん、私も手伝います。港町の情報網を使えば、少しずつ追跡できるはずです」


私は小さく息を吐き、硝子瓶に残る微かな色の違いと匂いに集中した。港町麟洲の表向きは平和だが、裏では権力と利潤のために薬が操られている。その陰影を、私は一つずつ暴き出す――。


宵薬房の灯りが揺れる。潮風の匂いが、今日も真実を運んでくる。

「小さな違和感……これが、港町の嘘を解く鍵になる」

私は硝子瓶の中の世界に視線を落とし、静かに決意を固めた。

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