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第3話『船影の薬袋』

港町麟洲の朝は、潮の匂いと鉄の香りで始まる。船が波を切る音が遠くから届き、木箱や麻袋の匂いが桟橋に漂う。私は宵薬房の戸を開け、今日も薬瓶の蓋をそっと閉じた。


「紗夜さん、これを見てください」

来栖海斗が走り込む。手には船倉で見つけた薬袋を握っている。袋の中身は、茶葉、香草、そしてわずかに異物が混ざった粉末。昨夜の屋台事件と同じ匂いがした。


「これは……」私は袋を手に取り、指先で粉末を確認する。色、触感、香り……微妙にだが、明らかに天然ではない成分が混じっている。

「港に入る前に、改ざんされたものですね」


海斗の目が真剣になる。

「つまり、屋台の事件は偶然じゃない……」

「うん。黒帆会の仕業かもしれない」私は小さく頷き、薬袋を慎重に包む。


外に出ると、港の商会の倉庫が並ぶ通り。表向きは魚や香辛料の取引が中心だが、その陰に、不正な薬材が潜む。私は深呼吸し、慎重に倉庫の前を歩く。


「紗夜さん、ここからは慎重に」

芹沢直が肩越しに声をかける。彼の表情はいつも通り堅いが、目の奥に心配が宿る。

「わかってる。でも見過ごすわけにはいかない」


倉庫の奥で、わずかに光る硝子瓶を見つける。中には、茶葉に混ぜられた粉末が溶けた液体。化学的な違和感がはっきりとある。手袋をつけ、慎重に瓶を取り出す。


「これで、港に流れる外来薬材のルートが少し見えてきた」

直が眉をひそめる。

「港の商会も、黒帆会も、手口は巧妙ですね」

「でも、少しずつ痕跡は残すものよ。見逃さない」


赤尾結が背後から静かに現れた。

「紗夜さん、私も少し情報を得ました。表向きの商会の流通ルートに、改ざんされた薬材が混ざっている可能性があります」

「ありがとう。これで仮説を組み立てられる」


私は薬瓶の匂いを嗅ぎ、色を観察し、触感を確かめる。細かな違和感の積み重ねが、事件の輪郭を浮かび上がらせる。

「港の外来薬材は、表向きの取引と裏で利益を得る組織の間で行き来している……。黒帆会は間違いなく関与している」


海斗が小さくため息をつく。

「港の闇は深いな……」

「でも、少なくともここまでなら、私たちで追跡できる」私は硝子瓶を抱きしめ、港の風に顔を向けた。

「港町麟洲は、今日も表向きは平和。でも、真実は小さな硝子の中にある――」


夜、宵薬房に戻ると、港の灯りが水面に揺れる。瓶を棚に戻し、明かりを落とす。薬の香りと潮の匂いが混ざる中、私は小さく呟いた。

「次に見つけるのは、黒帆会の隠し場所……それと、家族に関わる刻印の真実」


夜風が戸口を揺らし、宵薬師の小さな灯りが揺れる。港町の闇はまだ深い――しかし、少しずつ、光を差し込む道筋は見え始めていた。

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