須藤先生の退職理由
昔話の桃太郎とは何ら関係がありません。
※5分大祭の前祭作品です。
むか~し、むかし。あるところに子供のいないお爺さんとお婆さんが住んでおりました。
子供がいたらいいのになと常々思っていた2人。ある日のこと、お婆さんが町を歩いていると後ろから声をかけられました。
「お婆さん! 生まれてますよ! 桃のような肌の男の子が!」
「おや、まぁ!?」
へその緒が繋がった我が子を見てお婆さんはビックリしました。そう、桃のように太っていたお婆さんは自分が妊娠していたことに気付いていなかったのです。
早速家に連れて帰るとお爺さんはお婆さんと共に大喜び。
男の子は桃太郎と名付けられすくすくと成長し、小学校に入学しました。
楽しい学校生活を過ごしていた桃太郎。今日は最も楽しみな行事の一つ、遠足です。
「桃太郎や、今日は遠足だね。これをおやつに持ってお行き」
お婆さんは手作りの吉備団子を桃太郎に持たせました。
「桃太郎や、今日は遠足だね。これを持ってみんなを先導するんだぞ」
お爺さんは『日本一』と書かれた幟を持たせました。
「お爺さん! お婆さん! ありがとう!」
桃太郎は元気良く飛び出していきました。
「まっさかり~か~ついだ、きんたろ~♪ たすけたかめにつれら~れて~♪」
桃太郎は楽しみにしていた遠足でとても上機嫌ですが、学校に到着すると、とんでもないものを見てしまいました。
「あ、おにがわらせんせーが、たばこをすっちゃいけないところですってる!」
鬼瓦先生はいつもジャージにタンクトップで竹刀を持ち歩いているため子供達からの嫌われ者。
桃太郎自身も先日忘れ物をしたときに一時間も正座させられたことを忘れてはいません。
「おにがわらせんせい、わるいんだ! よ~し……」
今日の目的地は学校から少し離れた緑地公園。
桃太郎は道中、犬山君に声かけます。
「おい、いぬやま! きびだんごやるから、おれについてこい!」
「ほんとうかい? ももたろうくん! ついていくよ!」
手をブンブン振っている犬山君が仲間になりました。
次に猿田君に声をかけます。
「おい、さるた! きびだんごやるから、おれについてこい!」
「きびだんご~? うまそうだな~ わかった~ ついていく~」
どこかボーッとしている猿田君も仲間になりました。
最後に雉引君に声をかけます。
「おい、きじびき! きびだんごやるから、おれについてこい!」
「ふ、ぼくがきびだんごぐらいでついていくとおもうのかい? もちろんついていくさ……」
メガネをくいっと押し上げた雉引君も仲間になりました。
「ところで、どこにいくんだい? ももたろうくん」
「あさ、がっこうでおにがわらせんせいがたばこすってたんだ!」
「ほんとうかい? ももたろうくん」
「わ~るいんだ♪わるいんだ~♪せ~んせ~いに~ゆうてやろ~♪」
「さるた、ばかだな~、おにがわらせんせいがせんせいだろ? せんせいにいってどうするんだよ。おれたちでたいじするんだよ!」
「あ、そっか~」
「それで、ぼくたちでどうやっておにがわらせんせいをたいじするんだい?」
「かんたんだよ! 4にんでかこんで、たこなぐりにしちゃえばいいんだ!」
桃太郎の言葉に3人は一様に驚きます。
「ももたろう~おまえ~あたまいいな~。さすが、おれたちのリーダーだな~」
猿田君が特に感心しながら首を何度も頷いています。
「えっへん、なんてったってにほんいちだからな!」
「よ! ももたろう! にっぽんいち~!」
「やんややんや~」
「ふ、それぐらいぼくだってかんがえていたよ……」
囃し立てる2人とは対照的に雉引君は腕を組みながらも横目で桃太郎を見ています。
「それじゃぁ、りょくちこうえんについておべんとーたべたら、しゅうごうだ! いいな! おまえら!」
「きびだんごわすれないでよ~」
そんなことを話しているうちに目的地の緑地公園に到着しました。
「よ~し、お前ら~。今からお弁当の時間だ~。あまり遠くへ行くなよ! 解散!」
桃太郎達はとても楽しい気持ちでお弁当を食べました。なんといっても、食べ終わったら鬼瓦先生を退治すると思うと、より一層美味しく感じるのです。
「ももたろうくん! たべおわったよ! はやくいこうよ!」
「いぬやまくんもきじびきくんもはやいな~。もうすこしまってよ~」
「ふ、べつにはやくおにがわらせんせいをたいじしたいからはやくたべおわったわけじゃないさ」
「さるた、きにしなくていいからゆっくりくえよ!」
「ももたろうくんはやさしいな~」
そわそわしている犬山君をよそに、猿田君はぼそぼそしながらようやく食べ終わりました。
「よーし、おまえらいくぞ-!」
4人は勢いよく立ち上がって、腕をふりふりしながら先生達が居るところへ行進です。
「おにがわらせんせえー! たのもー!」
「何か来たぞ、おい」
鬼瓦先生はお弁当を食べ終えたあとのティーブレイクを邪魔されて不機嫌です。
「おにがわらせんせー! あさ、たばこすってただろー!」
「「「すってただろー!」」」
「わるいやつだから、おれたちがたいじしてやる-!」
「「「してやるー!」」」
4人は途中で拾った木の棒をブンブン振り回しています。
「須藤先生、彼等は鬼退治ごっこがしたいみたいなので相手して上げてください」
「あら~。桃太郎君達どうしたの~?」
須藤先生は今年大学を卒業して赴任してきたとても若くてキレイな先生で子供達の人気者です。
「あのね! すどうせんせい! きいてきいて! おにがわらせんせいがね! がっこうでね! たばこをね! すっててね! それでね! ぼくたちがね! たいじしにきた!」
「あら~。鬼瓦先生が? じゃぁ、須藤先生から言っておくから、あっち行って遊ぼうね~」
須藤先生は4人を他の先生達から離すように背中を押していきます。
「すどうせんせいもいっしょにあそぶか~!?」
「あら~。先生と遊びたいの? しょうがないな~。先生もうこの仕事辞めたいわ」
「すどうせんせえー、なんかいったか?」
「ううん。なんでもないわ。うっとうしい桃太郎君達を他の先生達から押しつけられててちょっと疲れているだけよ。べつに恨んでいるとか、そんなことは決して決して無いからね~」
「ももたろうく~ん。ぼくたちなんでせんせいたちのところにきたんだっけ~?」
「ばかだな。さるた。すどうせんせいとあそぶためによびにきたにきまっているだろ?」
「ふ、さいしょからそういうよていだっただろ……」
「本当にこの子達ってば単純でバカなのね。先生早く良い人見つけて寿退職したいわ」
「すどうせんせえー、なんかいったか?」
いやいやの須藤先生と思う存分遊んだ桃太郎君。家に帰ってお爺さんとお婆さんに鬼退治のことをどのように話したのか……。それはまた別のお話。どっとはらい。