気づいたら異世界に
「・・・う〜ん、うん?」
目覚めると空が大きかった。
「・・・。昨日、外で寝たっけかな?」
当たりを見渡すと芝生の上にいた。
いやいや確かに昨夜はベッドで寝たよ。そうそう。昨日は15歳の誕生日で。誕生日はほぼ毎年1人で過ごしている。昨夜は魔法冒険譚の小説を読んでから寝た。だから昨日は確かにベッドで寝たはずだ。
ちなみに私はボッチではない。うん。望んで毎年自分の部屋に1人で過ごしている。シングルライフピーポーというやつだ。ちなみに学校はちゃんと行っているよ。
学校は私立の中学生だけど偏差値は普通。だから生徒に極端な不良はいないし、学級崩壊もしていない普通の学校だと思う。
「?」
辺りを見渡すと、爽やかな風が吹いている。目先を上げると遠くまで平原が続いていた。
「空が大きいなぁ。」
都内に住んでいると建物ぎっしりで、空が小さく見える。普段は気づかないけど、こんな場所に来ると改めて気付かされる。
あ、私の名前は結衣。学校では図書委員をやっています。友達はあまり多くありません。好きなものは物語、フィクションものを好みます。
「・・・。」
この状況はなんなんだろう?
普段から映画とか物語をよく読んでいるから、こんなよくわからない状況は実は大好きだ。いくつか可能性を思索する。
攫われた?旅行に出た後、記憶喪失になった?多重人格が目覚めて1年後に主人格に戻ったが、多重人格中の記憶はない。なんて小説を読んだことがある。
「でも、昨日のパジャマ着てるよね?」
左手にコツンと何か当たる。
「うん?」
左手のすぐ横に長い棒が落ちていた。
「刀?」
手に取って、なんとなく鞘から刀を抜いてみる。
「うわぁ」
抜いたとたん突然に輝く本身。そしてどこからか声が聞こえた。
「私は異空間の女神アリエル。結衣さん、手違い・・・いえ、諸事情によりあなたは地球とは別の異世界に転生されました。」
辺りを見渡すが誰もいない。諸事情?その前に手違いとか聞こえたよ?
「お詫びといってはなんですが、ささやかながらプレゼントがあります。ここは魔物が跋扈する世界なので、多少の武術能力を差し上げます。どんな能力がいいですか?」
「どんなっていきなり言われても。」
「では占術で相応しいものを探しますね。」
女神さまは何か難しい言葉を唱えている。
「・・・はい。剣術がよいとでました。」
「剣術?」
「はい、しかし私は剣術と言うものが分かりません。ゆえに、あなたの地球の記憶からトレースして付与します。」
その瞬間、身体が暖かくなった。しばらくするとまた声が聞こえる。
「ではあなたの未来に幸あらんことを。」
刀の輝きがおさまった。なんか雰囲気は壮大なストーリーの始まりみたい。言ってた内容はお詫びと謝礼みたいな感じだったけど?
「うわぁ。」
想像より斜め上。攫われたんでも、記憶喪失でもない。
この状況から考えるに、体感型MMORPGの中に寝てる間に入れられた。もしくは、さっきの説明のまま現実かのどっちかかな。ちなみに2018年の今はこんな現実感のあるゲームは存在しない。
「ログアウト。」
一応言ってみる。
「ステータスオープン。」
・・・何もおこらない。
「現実かなぁ。」
よし。今は、現実かゲームか置いておこう。現実強目だけど。
さっきの説明。なんて言ってたっけ?寝起きでよく分からなかった。てゆうかやけに早口だったよね。説明口調だし。
えーと、・・・つまり、異世界転生して、すごい能力もらったのかな?神様?とか何故異世界転生したのかとかはいまは置いとこう。
でも、いきなり異世界転生なんて。地球に戻らなきゃ。戻らなきゃ・・?ん〜、元の世界に戻りたい!・・・かな?・・・戻りた・・・らなくてもいいかな。戻ってもボッチだし・・・。いや!ソロライフピーポーだし。
異世界転生?魔物はいるけど魔王を倒せとかじゃないからいいかな?とりあえず、RPGみたく街を目指していこう。
すっと立ち上がり歩き出す。刀が邪魔だなぁ。と思っていると、なんとなく異空間にしまえる気がした。そこで念じてみると目の前の空間が開いた。
「異空間収納?」
口に出すと刀が空間に消える。
「ホントにしまえた。便利かも。」
異空間女神様の加護かな?
刀を試しに出したりしまったりしながら、しばらく歩いていると、猪が現れた。牛くらいの大きさの。かなり大きい。いきなり私目掛けて襲って来た!
一方私は変に冷静だ。まだ現実感がないのかもしれない。それとももらった武術の心得の影響?
とはいえ何もできない。だからそのまま体当たりを食らった!
ドガン!
というような衝撃音を聞いた気がする。
「・・・痛った〜い!」
痛い。巨大な猪の突撃を食らったのだ。そりゃ痛い。
でも、その場から一歩も動いていなかった。猪の一撃を受け止めていた!
「ほぇ?」
巨大な猪は低い唸り声でグルグル言っている。ものすごい鼻息をたて、足に力を入れ地面を蹴っているみたいだ。
でも、押されている私はその場から動かない。
「何これ?」
痛かったけど、猫に体当たり食らったレベルだ。
私は押し返してみる。うん。ビクともしない。
防御力は現実離れしてるけど、単純な力は今まで通りってこと?
冷静に分析する。なんか余裕がある。現実じゃなくてゲームなのかな?
じゃあ技やスピードは?
試しに猪の力押しを受け流してみる。なぜかできるような気がして、左手で力の方向を変える。
スルッと抜けられた。猪は態勢を崩し前のめりに倒れた。
攻撃するチャンス!
でも力はない。あ、刀があった。
異空間収納から刀を取り出す。背中を向けている猪に向かう。
刀を抜こうとすると身体が勝手に動いた!
「わっ?」
右手で抜刀したかと思うと猪を通り越していた。
すれ違い様に刀を振り抜いたようだ。今は再び納刀している。
結果、居合切りのような形になった。
後ろを振り返ると、猪は上下で真っ二つに分かれていた。
「・・・凄い。」
猪を押し返す力はないけど、刀を使うと一撃必殺?
女神様は私の地球の記憶から剣術の心得を付与した。とかおっしゃってたけど、こんな威力の剣術は映画とか漫画とか物語の世界の話だ。
・・・地球の記憶?もしかして地球の物語も含む?私の剣術の記憶は空想物語にかなり偏っている。
「なんていうチート。」
けど助かった、ふぅ。
「キャー!」
突撃、前方から女性の叫び声が聞こえた。
「え?」
叫び声に反応し振り返ると、数十メートル先に馬車が見える。その周りを何か大きな影が取り囲んでいた。
「魔物?」
急ぎ馬車へ駆け寄る。