できること
開地さんが能力に目覚めたのは、2年くらい前のようだ。
「ある日突然なんです。
電池の向きがわかるようになって」
彼女は重度の機械音痴で、電池交換も一苦労だったそうだ。
「機械音痴の自覚はあるので、なるべく充電するタイプを選んでるんです。
でも、リモコンだけはどうしても...
それで、その日もリモコンの電池を交換していたら
わかるんです。
不思議と。
こっちが正しいんだなって。」
やはり、他の能力者と同じ証言だった。
八ヶ代や、ネットで読んだほかの能力者も、
"ある日突然できた。"
と言っている。
これについては、新谷も同じだったようだ。
アップロード済みの動画で、そう話している。
「能力が発現してから、成長?みたいなことはあったんですか?」
俺が質問してみる。
「成長...
無い...と思います。
電池を交換する機会って、あまりなくて..」
開地さんは、新谷をチラチラみながらそう言った。
「なら、今回の動画でそれを検証するってのはどうかな?」
新谷の提案により、今回は検証動画をつくることになった。
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「よし!こんなもんか!」
俺たちは、とりあえず手近にある物を集めてきた。
テレビのリモコン、時計、懐中電灯 などだ。
開地さんが試したところ、間違いなく電池を交換できた。
カバーの開け閉めには手間取っていたので、機械音痴というのも本当なのだろう。
「こ、こんな感じです。」
申し訳なさそうに言ったのをみて、疑問がわく。
(なんで、こんな人が動画に...?)
また顔に出ていたのか、開地さんは苦笑いを浮かべている。
新谷は検証結果をメモしている。
意外と勤勉な性格のようだ。
「あのぉ...」
思い切って聞いてみることにした。
「開地さんは、どうして動画に?
失礼ですけど..あんまり目立ちたい人ではないような...」
開地さんの苦笑いは、困った感じに変わっている。
すると、新谷が代わりにクチを開く。
「...すまん...乙成...。
動画の話、実は嘘なんだ」
俺は多少おどろいたが、妙に納得した。
彼によると
開地さんの能力が成長しているもしれない
それが怖くて、新谷に相談してきた
八ヶ代の噂を聞いて、俺ならなにかできるんじゃないかと思った
とのことだった。
「なるほどね」
(八ヶ代のことも、あんまりチカラになった覚えはないけど...)
そう思ったが、超常現象が好きな俺としては断る理由もなかった。
「じゃあ...
変化した能力をみせてもらえますか?」
"わかりました"と言った後に、開地さんは、俺の目を見つめている。
(なんだ?...ちょっとてれるな)
「乙成さんはいま..
目をそらしたいですよね」
当たっている。
当たっているが、ほぼ初対面の人に見つめられたら、大抵そうだろうとも思う。
「あんまり信じてもらえないと思いますけど...
なんとなく、わかるようになってきて
目の前のひとがどっちを向きたいのか....」
「え?」
「やっぱり信じられないですよね。はは。」
開地さんは、諦めたような苦笑いでそういった。
俺は疑ってなどいなかった。
むしろ、あまりに超能力らしい超能力なので、興奮しているくらいだ。
(電池の向きと、意識の向きに関係が?
いやまて、人間の神経は電気信号が流れてるっていうしな)
とりあえず有り合わせの知識で、空想が始まる。
理解できないことを空想する時間が、すごく好きだったりする。
「乙成?」
新谷に呼ばれて、我に帰る。
「ごめんごめん
ちょっと空想しちゃってて」
「空想?ですか?」
「そうなんです
あまりに、超能力っぽくて嬉しくなって、いろいろ考えてたんです」
「じゃあ...信じてくれるんですか?」
「信じるもなにも、すごいことですよ!
ネットにだって、都市伝説程度でしかのってないですから!」
つい興奮していってしまった。
しかし、都市伝説レベルの訳は、すこし考えればわかる。
「危険だと思われる...か...」
普通に考えて、日常に自分の心を読む人がいるのはいい気分ではない。
また、悪用するヤツが出てくることも、少し考えればわかる。
「そう...なんです..」
だから、新谷は嘘をついたのだ。
「黙っててすまない。乙成...
でも、頼むから黙っていてくれないか」
新谷がいままでにない真剣な表情で、そういった。
誰にも言うつもりはないことを伝えると、安心したようだった。
ここでまた、疑問が出てくる。
「開地さんはどうして、新谷と俺を信用してくれるんですか?」
「それは...」
開地さんによると
新谷とは、意識の向きがわかるようになる前からの付き合いだ
同じような能力を持つもの同志、気が合った
自分がこうなったからには、新谷の能力も成長するかもしれない
新谷のすすめで、俺を頼ることにした
とのことだった。
「なるほど
でも新谷とは、そんなに話したことないよな?」
「それは...
乙成は、八ヶ代のことで実績があるし
よく知らない誰かに言うわけにもいかない
それに...」
「それに?」
「友達も少なくて、クチが固そうだから...」
なるほど。
間違ってはいない。
いないが...
「ほっとけ」
それだけは言い返してやった。