向き
新谷 大八は、割と有名な能力者だ。
自分で動画投稿もしていて、それなりの再生数も稼いでいる。
その新谷から話しかけられたのは、午後のことだ。
「乙成くん?」
「そうだけど」
「きみさ、超能力とか好きなんだって?」
「好きだけど」
「今度の動画に協力してほしいんだけど、どうかな?」
新谷の話を要約すると
最近、再生数が伸び悩んでいる
超常現象が好きなひとに好まれる動画にしたい
とのことだった。
俺はいったん考えさせて欲しいと伝えた。
「考えがまとまったら、連絡してくれよ!」
ということで、連絡先も交換した。
夕花さんと交換した時に比べると、ずいぶん嬉しくないなと思った。
たとえ1時間後に失恋したとしても。
(はぁ...といってもなぁ...)
俺は見るのは好きだが、作ったことはない。
"こうだったらいいな"と思うことはあるが、多数派に受けるかは不明だ。
(うん、やっぱり断ろう)
そう思った時、新谷からメッセージが届いた。
内容は、今度の動画に別の能力者が来るとのことだった。
俺は、会ってみたいと言う衝動に負けて、引き受けることにした。
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「はじめまして。」
新谷が連れてきた人は、開地 ゆ希という女の人だった。
開地さんには、新谷と似た能力があると言う。
「じゃあ、俺たちの能力をみてくれ」
新谷からの提案で、能力を見ることにした。
「わ、私のは...
電池の向きがわかる能力です...
地味...ですよね。はは。」
能力の多くがそうだが、地味だ。
新谷の能力は知っていたが、開地さんの能力も地味だった。
それが、俺の顔に出ていたのだろう。
開地さんも苦笑いしていた。
しかし俺には、気になることがある。
(また、似たもの同士か)
新谷の能力は、USBコネクタの向きがわかる能力だ。
八ヶ代と夕花さんのときもそうだったが、
似ている能力が集まりやすい気がする。
「2人は、幼馴染かなにか...ですか?」
おそるおそる聞いてみた。
しかし、ネットで知り合ったようだ。
「どうだ?乙成!
俺たちが動画を作ったら再生数かせげると思わないか?」
俺の考え事を遮るように、新谷が言った。
(再生数...か...)
「能力も似ているし、情報交換でもしたらどうだ?」
俺の提案が採用され、情報交換から始めることになった。