思い出の場所へ
「おはよう。」
先に駅で待っていた八ヶ代に挨拶をする。
「おいおい、ギリギリじゃねぇか」
今日が楽しみすぎて眠れなかった俺は、朝まで起きてしまった。
こう言う時に限って、目覚ましの1時間前に寝てしまったりするのだ。
「ごめん、ちょっと寝れなくて」
ただでさえ重いリュックが、更に重く感じる。
(念の為とか言って詰め込みすぎたな)
今日向かう場所は近いとは言えないが、日帰りは十分可能な距離だ。
駅の売店で、朝食代わりのサンドイッチとエナジードリンクを買い、電車に乗る。
休日早朝の電車は空いていたので、こっそりサンドイッチを食べる。
エナジードリンクはこぼれにくいと思って、蓋つきのパッケージを選んだ。
(コンプライアンスね。コンプライアンス)
最近ネットで覚えたので、心の中で呟いてみる。
お腹も落ち着き、カフェインも効いてきたので、八ヶ代に聞いてみる。
待っていてくれたのか、考え事をしていたのか。
八ヶ代は、電車に乗ってから何も喋らなかった。
「なぁ。」
「...ん?」
ぼーっとしていた彼の顔に、表情が戻る。
「思い出せたかよ?」
「んー。いくつか、候補はな。」
そこから電車を降りるまでの大半は、各々の時間を過ごした。
俺は眠ったり、スマホをいじったり。
たまに八ヶ代に話しかけてみるが、やっぱり上の空だった。