思い出せない思い出
「みたか?動画」
次の日、八ヶ代に聞いてみた。
「ああ。」
八ヶ代は上の空で返事をする。
「おい、聞いてんのか?」
「ああ。」
やっぱり、いつもと様子が違う。
俺は思わず、八ヶ代の肩を掴んで呼びかけた。
「おい!」
「あ!おお。ごめんな。
少し考えごとしてて。」
考えごとの内容は、聞かなくてもわかる。
あの動画のことだ。
「それで、おまえのと同じだったのかよ?」
「んー、正直わかんね。
同じといえば同じような、ただ、ゾロ目を集めただけの動画のような」
(それは、そうか。)
八ヶ代のことがあるので勝手に、関連があるような気になっていた。
これは、都合の良い解釈なのだろう。
「ただ..」
八ヶ代が、話し始める。
「動画の中にひとつだけ、見覚えのある時計があったような...」
「ほんとかよ!?どれ!?」
八ヶ代が自身なさげに、動画を止める。
「これ...いや、似たような時計はたくさんあると思うんだけど、景色に見覚えがあるんだよな」
昔どこかでよくみていた時計に似ているそうだ。
しかし、どこでみたのか思い出せない。
俺は、どこかで聞いた話を思い出していた。
(毎日みる腕時計でさえ、見ないで描こうとすると上手くかけない。
そういう、記憶の曖昧さを思い知る みたいなはなし、あったなぁ)
「おい。乙成、聞いてるのか?」
今度は逆に、呼び戻されてしまった。
「あ!ああ!ごめんごめん
なんの話だっけ?」
八ヶ代は呆れた様子で、もう一度説明してくれた。
要約すると
小さい頃によく遊んだあたりかもしれない
中学生に上がるあたりに引越したから前の住所付近を見に行きたい
1人では気が滅入りそうなので週末についてきてほしい
とのことだった。
俺は、不思議体験の匂いを感じ取り、二つ返事でokした。
「人の心配を楽しみやがって
おまえほんと、こう言うの好きだよな」
言葉とは裏腹に、八ヶ代からは安堵した雰囲気が感じられた。
(よーし、面白くなってきた!
これが、Win-Winってやつか?はは!)
八ヶ代には悪いが、俺は週末に向けての準備で頭がいっぱいになった。