表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

姉妹

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくにじゅうご。

 


 軽やかなリズムの音楽が車内を包む。


 昔からアップテンポの曲が好きな妹が、最近はまっている歌手の曲らしい。

 残念ながら趣味が違うので、ハマるとまではいかないが……うん。嫌いな感じではない。

 案外、音楽の趣味は違うが、すれ違いぐらいはあるのかもしれない。

「……」

 助手席に座り、走る景色を眺める。

 外は穏やかな街並みが足早にかけていく。

 見慣れたはずの景色ではあるが、やはり車と徒歩じゃあ違う……当たり前だけど。

「……」

 隣では妹が音楽にノリノリで、楽しそうに運転している。

 小さな軽の車であるが、新しいモノなのかかなり広さがある。

 まぁ、何度か乗せられているので勝手知ったると言う感じではある。

 ……そんなことは、どうでもいいのだ今は。

「……」

 なぜ。

 今。

 妹の車に乗せられているか。

 単純といえば、単純なことなんだけど。

「……」

 始まりは昨夜。

 甥っ子が電話をしたいと駄々をこねたらしく、寝る時間までという約束で通話をしていた。

 それでまぁ、その流れで妹とも軽く話をしたのだ。

「……」

 どんな流れで、そんな話になったのかは忘れたが……少し離れたところにある神社の話になったのだ。灯籠がたくさん並んだ、閑寂な神社で、昔は初詣に行ったりもしていた。

 そこが、何日か前に地元のテレビで特集されていたらしく、久しぶりに行きたいよねーと。

 そう言い出した妹が。

「……」

 翌日―つまり今日の朝。

 今日休みだから、せっかくだしあの神社行こうよ。

 と、まぁ、ほとんど言われるがままに連れ出されたのだ。

「……」

 そして、今に至る。

 ……ホントに行動力の鬼すぎるなこの妹。相変わらずなのはいいのだけど。

 甥っ子は今日は園に預けているらしい。せっかくの休みなら、一緒に連れて逝けばいいの……というと、まだ無理でしょ、と言われた。

 うん。まぁ。

「―うん?」

 赤信号に引っかかり、車が止まり、妹が声を上げる。

 目の前の横断歩道を歩く1人の青年に目が向いた。

 きっちりとした格好に身を包み、大きな花束を抱えてていた。

「……にしては大きくない?」

 それを見た妹が、卒業式かなぁなんていうもので。

 花束のサイズ感が若干おかしいと言ってみる。

 ならばなんだろうとぼんやりと考え……

「案外、プロポーズとかかもよ」

 ―そんなベタな。

 何ていう驚愕混じりの声が、挙動と共に返ってくる。

 こうして、外を歩く人や周りの人をみて、勝手に色々考えたりするところは、姉妹の共通点だった。

「っふw」

 ―ww

 よくないとは思うが、案外楽しいのだ。

 人間観察という程、立派なものでもないが、2人そろって外に出ると大抵こういう会話の方が弾む。お互い周りを見て動いたりすることが常だったから、それの延長という感覚なのだろう。

 全く、姉妹そろって、どんな奴だ。

「……」

 きっと、卒業でもプロポーズでもないんだろうし、案外あっているかもしれないし。

 他人には他人の事情がある。

 私にも妹にもあるように。


 ―そういえばさ


「?なに」

 突然、声のトーンが変わる。

 車を発進させ、前を真っすぐ見ながら口を割る。

 私もゆっくりと、前を見据える。

「……」

 その口から洩れたのは、ここ数ヶ月、ここ数日の、私のあれこれだった。

「……」

 訥々と話し、少し呆れを滲ませながら。

 ―抱え込むのはよくないって、散々お姉ちゃんが言ってくれたんだからさ。

 なんて、言われてしまった。

「……」

 まぁ。

 妹が学生だった頃、そんなことも言っていた。

 皆一様にして何かしらの悩みを抱え始める頃。

 身内には頼りようがなく、他人に頼ることをそもそも良しとしない妹を見かねて。

 そんなことを言っていた。

「……」

 沢山の事を。

 あれもこれもを。

 一人で抱え込んだところで良いことはない。

 人一人に持てる荷物の量なんてたかが知れている。

 それ以上を抱えたところで、自分がつぶれてしまうだけ。

「……」

 自分がつぶれてしまう前に、分けてしまうのは別にいい。

 分けたくなくともまぁ……その時は抱えてもいいけど、軽くするぐらいはした方がいい。

 それぐらいなら、手伝ってくれる人はそれなりにいる。

 赤の他人でもいいし、友達でもいいし、教師でもいいし、叔父さんおばさんでもいいし、私でもいい。

「……」

 と。

「……」

 そんなことを、偉そうに話していたことがあった。

 自分ができていないので、果たしてそれは正しいのかと言われると、なんだかよく分からないが。それが妹の助けになっていたのなら、それはそれでいいのかなと思う。

「……うん」

 そんなことも言ってたね…なんて他人事のようにいってみる。

 抱え込むのがよくないことは、今も尚身をもってして味わっている。

 どうにかしようとはまだ思えない。だからそれをどうにかしろとは妹は言わない。

 でもこうして、倒れてしまって。妹にまで迷惑をかけて。

 こんな。


「こんな、お姉ちゃんで、残念だった?」


 と。

 声がこぼれていた。

 鼻の奥が痛くなる。

 喉がキュウと閉まる。

 こんな、ワガママな子供みたいなこと―


「そんなわけないじゃん」


「――」

 思わず、思いっきり顔を窓の外に向ける。

 妹の顔が見れない。

 いま目が合ったら、これ以上のものがこぼれそうだ。

 様々な感情が渦巻く。抑えきれない色々がこぼれないように。

「……ありがとう」

 それだけを、何とか告げて。

 なんだか神社に行くだけなのに、変な雰囲気になってしまった。

 隣の妹は何かに満足したのか、また楽し気に歌っている。




 お題:花束・抱え込む・灯籠

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ