幕間:妹の願いに
「はぁ……」
あの後家に帰ってきた諒と香純は、居間で家族と共に少し遅い夕食を食べていたのだが。
正座し座卓に並ぶ夕食を少し食べては、露骨に困ったようなため息を吐く香純に、一緒に座っていた両親や諒も、思わず首を傾げていた。
「香純。何かあったの?」
「え? あ、ううん。別に……」
母、静江の問いかけに慌てて平然を装おうとするも、普段より進んでいない食事が現実を物語らせている。
「あまり無理はするなよ」
「う、うん。ありがと」
短く口にされた父、来人の言葉に済まなそうに頭を下げた香純は、静かに食事を進めていくも、喉を通らなくなったのか。
「お母さん。ごめんなさい。今日、残しても良い?」
彼女はそんな事を言ってきた。
「いいわよ、無理しないで。先にお風呂でも入ってすっきりなさい」
「うん。ご馳走様」
先に席を立ち二階に上がっていった香純を見送った後、残った三人は顔を見合わせた。
「何があったんだ?」
「さあ。諒は何か知ってる?」
「いや。今日知り合いの家でTwo Rougeのライブ中継を観たってのは知ってるけど……」
「そう。受験生なんだから、あまり遊びに夢中でも困るのだけど……」
心配そうにする静江に対し。
「まあいいじゃないか。人生は一度きり。ちゃんと志望校に合格できるなら、少し位は大目に見てやればいいさ」
何処か楽観的な来人。
そんな対照的な二人を見ながら、諒は思わず微笑む。
──しかし、何があったんだ?
内心そんな疑問が浮かんだ諒だったが、今は食事中。
その謎を追いたい心を抑え、ただ静かに食事を食べすすめるのだった。
*****
「……つまり、あいつはその企画に日向さんと応募したいって思ってるのか」
『そうみたいだね。二人共相当本気で頑張りたいみたいだけど……。でも、考えていることが本格的過ぎて、中高生でどうにかできる範囲を超えてる気がするんだよね』
夕食を済ませた後。
風呂を済ませた諒はパジャマ姿でベッドに横になりながら蒼に電話をかけ、今日の状況について確認をしていた。
日向と香純のTwo Rougeに対する熱の入れようは、カラオケでの二人を見てもよく分かる。
だからこそ蒼が心配するのも最もだ。
「確かに。でも香純も日向さんも、譲らなそうだよなぁ」
『今日の感じだと間違いなくね。正直お手上げだったし……』
「……お前も大変だったんだな」
珍しく疲れた声を上げた蒼の言葉に、諒は思わず同情の声を掛ける。
『諒はどうする気だい?』
「まだ直接香純から相談されてないから一旦静観。ただ、本気で香純や日向さんが頑張るって言うなら、協力はしようと思うけど」
『でもきっと、すごくお金とか掛けちゃいそうだよね』
「まあそこは色々考えて親とかにも相談してみるよ。悪いんだけど、蒼もいざとなったら協力してくれないか? あ、お金って意味じゃなくって」
『それは大丈夫だよ。勿論多少はカンパしてもいいしね』
「そこまで無理しなくてもいいって」
『僕だって折角なら力になりたいし。まずは何か動きがあったら教えてくれるかい?』
「ああ分かった。悪かったな。こんな時間に」
『大丈だよ。明日も休みだし。その代わりその内またテニス付き合ってくれるかい?』
「分かった。じゃあまたな。おやすみ」
『おやすみ』
就寝の挨拶を交わした諒は、スマートフォンをベッドボードに置くと、両手を頭の後ろにやり、足を組んだまま天井を見つめた。
──どうりであれだけため息を吐く訳だ。
その理由は間違いなく、金銭面だろう。
香純は十分年頃な女の子。それ故にファッションや趣味、友達付き合いにお金を掛けている。それ故にあまり貯金もないというのも理解していた。
だからこそ、本気でこれを成そうとした時に、妹が頭を抱えるのも分かる。
──きっと、まずは父さんや母さんに相談するだろうけど……。
そう考えた時。
多分父親は寛容に協力してくれそうだし、母親は戒めようとする未来が充分に予想できる。
協力してくれるかどうか。
こればかりは、どちらに転ぶか何とも言えないだろう。
──仕方ない。少し調べてみるか。
ふっと呆れた笑みを浮かべた後。
諒は起き上がると自分の机にあるノートパソコンを起動しログインすると、ネットで色々と調べ始めた。
Two Rougeのコスプレ衣装の価格に始まり、スタジオ代や、ショルダーキーボードのレンタル代に購入代。
それらを調べていくほどに、恐ろしく費用が跳ね上がっていく。
──きっと動画だって、ただ撮ったら終わりって訳にはいかないんだろうな……。
日向や香純が考えているか分からないような細かな所まで試算しながら、彼は黙々と表計算ソフトに色々と控えていく。
金額の総額には一旦目を瞑る。
そこはどちらにしても問題になるのだから、後から考えるべき話でいいのだ。
ただ、そもそも計算していく中で、自分の想定する必要な物や工程に漏れがないか。それがどうしても不安になってしまい、思わずため息を漏らす。
──こういうのに詳しい友達がいれば……。
「……あ」
いた。
その道のプロが。
とはいえ。
突然の再会もあったものの、友達となったばかりの椿を相手に、こんな話をしても良いのか。
今度はその事で悩んでしまう。
──今日がライブ当日だったんだし、今は疲れてるだろうからな。休みが明けたら話だけでもしてみようかな。
一旦そのアイデアは心に留め、諒はそのまま深夜遅くまで、香純と日向の為、一人黙々と考えを整理するのだった。




