第一話:ライバル達?
皆で遊園地に行った翌週。
ついに突入したゴールデンウィークの初日、四月二十九日。
学生は残念ながら飛び石連休のため、明日は学校なのだが、それでも休みが多いこの時期は、夏休み等と同様、とても嬉しい一時の始まりでもある。
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多少白い雲はあれど、風もなくとても良い快晴。
そんな青空の元、諒と蒼は市営のテニスコートでテニスに興じていた。
互いに白のテニスウェアに身を纏い、黄色いテニスボールを交互に打ち合いラリーを見せるのだが。その動きは周囲の客以上の鋭さを放っていた。
コートの隅を狙う蒼のボールコントロール。
鋭い球に食らいつきラケットで返した諒の狙った先は、自身の立つ直線上の隅。
だが、蒼もそれに素早く追いつくと、対角の隅にボールを打ち返し。それにも追いついた諒が、中央に戻ろうとする蒼の虚を突くべくまたも先程と同じ隅を狙う。
ベンチで二人のプレイを見守っている、同じくテニスウェアの日向と香純は、その球を何も言わずに追い続ける。
互いに鋭い球の応酬を見せた二人だったが。
何度目かのコーナーを突く鋭い球を、諒が何とか伸ばしたラケットで返した球がネット際で高く舞い、そこに詰めた蒼がジャンプスマッシュで彼と反対の隅に打ち込んで万事休す。
見事にインした球に彼が追いつけるわけもなく、そのラリーを蒼が制し、ゲームも勝利した。
「くっそぉ! もうちょいだったのに!」
試合巧者だった蒼に対し、それに必死についていった諒は汗だくになり、息を切らしたまま、堪らずコートに腰を下ろす。
「いやいや。ほんと諒の成長は油断ならないね。今日なんて完全に接戦だったし」
ネットを回り込み歩み寄った蒼もまた、汗は掻いているが、息はそこまで荒くない。
やはり経験者の余裕なのか。汗を腕で拭い、爽やかな笑みを向ける。
「たまには鼻を明かしてやろうと思ったんだけどなぁ」
「正直そろそろ危ないよ。今日はかなり本気だったし」
「そう口にできるだけまだまだ余裕じゃないか。ったく」
立ち上がるのに手を貸すように腕を伸ばした蒼の手を取り、諒は呆れた笑みを浮かべながら立ち上がる。
「お兄も蒼先輩も、お疲れ様です!」
「お、サンキュー」
「ありがとう」
二人に歩み寄った香純が二人にスポーツドリンクのペットボトルを手渡すと、二人は迷うことなく口を開け、一気に飲み始めた。
「しっかし、蒼君も凄いけどさ~。やっぱり諒君おかしいって。何でもできちゃうんじゃないの?」
彼等が飲み物から口を離したのを見計らい、諒にタオルを差し出した日向は、感心したようにそんな言葉を返す。
「全然そんな事ないよ。テニスだって結構前から蒼にしごかれてるだけだし」
軽く頭を下げ礼を返しつつ、受け取ったタオルで汗を拭きながら、諒は少し気恥ずかしげに笑みを返す。
──ひゃ~! せっくし~! 今日一緒にテニスするって言っておいて良かった~!
その爽やかさと汗に濡れた姿に内心大興奮ながら、それは表に出さず蒼にもタオルを手渡す日向。
タオルを受け取った蒼も「ありがとう」と短く返すと、頭からタオルを被り、軽く汗を拭く。
「でも、諒って本当に昔から何でもそつなくこなしちゃうんだよね。多分テニス一本で頑張ってたら、僕なんてあっさり抜かれちゃうよ」
「買いかぶり過ぎだって。それより次は二人が勝負かな?」
少し恥ずかしげな顔をしつつ、諒が話を逸らすように香純と日向を見た。
「妹ちゃんってどれくらいテニス上手いの?」
「蒼先輩に教わりましたけど、あんまり。海原先輩はどうなんですか?」
「私も中学校で友達と遊んだ位なんだよね~。変な所飛んだらごめんね」
「こちらこそです」
二人は以前のドリフトカートの時とは打って変わり、互いにやや自信なさげな顔を見せる。
勿論それは互いに本心を曝け出しただけなのだが、この会話だとあまり面白い勝負にならなそうに感じたのか。蒼が突然こんな提案をした。
「ねえ、諒。折角なんだし、勝ったほうにご褒美をあげようか?」
「え? ご褒美?」
にっこりと微笑む彼の一言に、問い掛けられた諒が思わず素っ頓狂な声をあげる。
その言葉に耳をピクリを動かしたのは戦う二人。
「蒼先輩。例えばどんなのですか?」
「そうだな~。二人は何がいい?」
敢えて彼女達に尋ねると、二人は一度顔を見合わせる。
「私は、特にそこまで考えてないんですけど。海原先輩は何かあります?」
少し考えるも、良いアイデアが浮かばない香純はただ首を捻っただけなのだが。こういう時に知恵が働くのはやはり日向だろうか。
「そうだなぁ。じゃ、諒君に褒めてもらいながら頭撫でてもらおっか?」
「はぁっ!?」
にんまりとしながら彼女が提案した内容に、諒は思わず目を丸くした。
「そんなのご褒美になんてならないでしょ? だろ? 香純」
と、思わず妹に同意を求めるも。彼女は返事をせず真剣な顔を日向に向ける。
「……海原先輩」
「何? やっぱりそれじゃ不服? そうだったら妹ちゃんは別のご褒美でも──」
「それでいきましょう! 女に二言は許されませんもんね!」
「……おいおい。それを言うなら男だし。それにそんなのでご褒美なんて──」
「さっすが妹ちゃん。じゃ、一勝負といきますか!」
「はい!」
日向の言葉に強く同意する香純。予想外の反応に呆れた声を向けた諒だったが、既に二人は彼の言葉など聞こえなかったかのように話をサクサクと進め、そのままコートに向けて走り出すと、互いに戦う構えを見せた。
「……なあ、蒼」
「何だい?」
「あんなのご褒美になるのか?」
「さあ。ただ、二人はそれで満足してるみたいだし、いいんじゃない?」
何とも言えない困った顔を向けてくる諒に、彼はくすりと笑うと。
「じゃあ、僕が審判をするから。二人とも頑張って」
そう言って彼は審判席に向かっていく。
「諒く~ん! 私が勝つようにちゃんと応援してね~!」
「お兄! 兄妹なんだから応援するならこっちだからね!」
「妹ちゃんぐいぐい来るね~! でも負けないからね!」
「こっちこそです! 絶対負けられないですから!」
互いに不敵な笑みを浮かべる女子二人。
それを面白げに見る蒼。
そんな三人を見ながら。
「何が何やら……」
未だ二人の恋心を知らぬ諒は、やれやれと呆れながら、一人ベンチに腰掛け、疲れた顔のまま戦いを見守るのだった。




