第十五話:想い出の写真
こうして、遊園地での一日を終えた六人は、既に夜のライトアップで華やかさを増した芝野蔵駅の改札前に立っていた。
「日向さん。今日は誘ってくれてありがとう」
「こっちこそ付き合ってくれてありがとう。皆に気を遣っちゃって、あんまり諒君と絡めなかったから、そこはまた一緒に食事でもしてもらおっかな~」
感謝の言葉を聞き、荷物を両手で前に持ったまま、やや前かがみににんまりとしつつそんな事を言う日向。
「日向。そういうのは諒君も皆も気にしちゃうでしょ?」
そう苦言を呈する萌絵だったが、残念ながら今日の彼女には効果がないのか。
「いいじゃ~ん。萌絵なんて介抱してもらってたし、観覧車でも二人っきりだったしさ~。椿さんもカート相乗りしてたし。妹ちゃんだって怖いの理由に諒君に抱きついちゃったりしたんでしょ?」
「ししし、してません!」
突然振られた香純は思わず顔を真っ赤にして否定すると、期待した反応だったのか。日向は満足そうに笑う。
「でしたら、また皆でお出掛けいたしましょう。朝のお話もございますし」
はたと何かを思い出し、優しい笑顔でそう語る椿にはっとして日向と香純も顔を見合わせると。
「グッドアイデア! そうしよそうしよ!」
「確かにそれいいですね! お兄も勿論いいよね?」
「お、おいおい。あれ本気なのか?」
「あったりまえじゃーん。ね? 椿さん」
「ええ」
一気に盛り上がりだす三人に、彼は一人頭を掻き。その時の話を知らない蒼と萌絵は顔を見合わせてしまう。
「ま、まあ、その話はまた後でするとして。そろそろ帰ろうか?」
誤魔化すように口にした諒に、皆もまた荷物を持ち直し、互いに向かい合った。
「椿さんは快速に乗るんだっけ?」
「はい。ですので皆様とはここまでです。また明日、学校でお会いしましょう」
蒼の言葉に頷いた椿は、少しだけ名残惜しそうな寂しげな顔をする。
そんな彼女の心情を察したのか。
「真行寺先輩。今日はありがとうございました」
「こちらこそ。楽しい時間をありがとうございました」
香純が頭を下げ礼を言うと、彼女もにっこりと微笑んだ。
「日向。妹さん達にもよろしくね」
「うん。また遊びに来てよ。舞子と雛子が最近萌絵姉ちゃんどうしてるかな~って気にしてるし」
「そっか。だったらまた会いに行くね」
日向と萌絵もまた、互いにそんな仲睦まじい会話を交わすと、普段と同じく微笑み合う。
「それじゃ、皆。まったね〜!」
「それでは、失礼します」
「今日は一日ありがとうございました!」
「日向も椿さんも、帰りは気をつけてね」
「二人共。また学校でね」
各々に別れの挨拶を口にした五人。
だが、ただ一人。何も言わなかった男がいた。
皆がふっと、声を出さぬ諒に気づき、ふっと顔を向けると。
そこには、ぼんやりと惚けながら皆を見つめていた諒がいた。
「諒君。どうしたの?」
隣に立っていた萌絵が、少し不思議そうに顔を見上げると。
「あ、いや。俺から声かけておいて何だけど。今日凄く楽しかったから、ちょっと名残惜しくって」
諒ははっとすると、そう言って気恥ずかしげに笑う。
その言葉に、皆は少しだけ唖然とすると、刹那。皆が同じく、微笑ましい笑顔を見せた。
「まったく。諒君案外寂しがり屋だよね~」
「本当ですね。明日またすぐ逢えますよ」
「椿さんの言う通りだよ。それにまた皆で何処か遊びに行ってもいいんだし」
「そうそう! また皆で遊びにいこ? ね? お兄」
そんな彼女達の言葉。そして何も言わず笑みを向ける蒼に、
「そうだね。ありがとう」
彼も優しく微笑み返した。
*****
窓の外では、夜の景色が目まぐるしく流れていく。
そんな帰りの電車の中。諒、蒼、香純、萌絵の四人が四人席に向かい合って腰を下ろしていた。
「でもほんと、これぞプロって写真ですよね」
諒が出していたフレームに入っている写真を覗き込みながら、彼の隣に座る香純が、感心した声を上げれば。
「確かに。このシルエットここまで綺麗にだせないよね」
同意をしながら、じっと写真を覗き込んでいる向かい側の蒼。
「本当に素敵で良い写真だよね」
見惚れるように写真を見つめる萌絵に。
「うん。いいよね」
この写真を撮った相手に憧れるかのように、諒もじっと見つめている。
そこにあった写真。
それは最後にトラベルエリアで撮影した物なのだが、写っているのは、彼等が撮影された記憶のないものだった。
マジックアワーに輝く夕焼け空の元。
シルエットの六人が、街並みを見つめ佇む背中姿で立っている。
明と暗のコントラストが素敵なその写真は、カメラマンが皆と別れた振りをし、こっそり撮ったサプライズ的一枚。
まるで映画のワンシーンを思わせるそれは皆の目を奪い、全員が同じ写真を買うことを決めた程。それ程までに幻想的な一枚であった。
「また、皆でこんな写真、撮りたいね」
ポツリと呟く諒に、三人は視線を向ける。
愛おしげに見つめている彼の表情を見て、蒼と香純は感じる。
本当にこういう機会に恵まれなかった彼が、本当に楽しんだであろうことを。
そして、萌絵もまた微笑む。
自分が世界を変えたという言葉を思い返して。
「あっ」
ふと、幸せそうにそんな彼を見つめていた萌絵が何かを思い出す。
「そういえば、椿さんの言ってた朝の話って何?」
「確かにそんな話していたね。僕も気になるんだけど」
素朴な疑問を向けた二人に、諒と香純ははっとして一度顔を見合わせる。
一転した諒の顔は、あまり語りたくないと言った苦笑い。
それを見て、香純も口にするか少し悩んだのだが。
「えっと、内緒です」
結局、彼女はそう言ってにっこりと笑う。
「え!? どうして?」
「あれは早く集まった人だけの特権ですから」
「これでも私も十分は早く着いたよ?」
「お兄や日向先輩達、もっと早かったですもん」
何とか食い下がろうとする彼女に、何処か楽しげに香純が笑う。
その悪戯っぽい表情を見て、萌絵はふと何かを重ねてしまう。
「何か、香純ちゃんって、少し日向に似てきた?」
「え? どんな所がですか?」
「何ていうか、人を困らせてにんまりする所とか」
確かに。日向にそんな節があるのは今や友達となった皆の周知の事実といってもよい。
だが、そんな彼女と似ているというのは、残念ながら褒め言葉ではない。
「霧島先輩そんな事言う人なんですね~。じゃ、ぜ〜ったい教えません!」
わざと不貞腐れた顔をしてそっぽを向く香純を見て。
「こういう反応は、萌絵さんに似たかもね」
諒は冗談っぽくそんな事を口にする。
「そ、そんな事ないもん! 私そんなにすぐ拗ねないし」
「あ~! 私だってそんなにすぐ不貞腐れませんよ!」
「いや、お前は結構多いだろ?」
「お兄ってば一言多い~!」
恥ずかしげに顔を真っ赤にする萌絵に、口を尖らせより頬を膨らませる香純。
そんな二人の反応に、諒は蒼と視線を交わすと、
「蒼。お前もそう思わない?」
そう言って会話に巻き込もうとする。
今までと違う諒の悪戯っぽい雰囲気を見て。
──諒も少しずつ、変わってきたかな。
内心そんな事を思いながら。
「そうやって僕を巻き込むのは止めよう?」
蒼は表向き苦笑する。
だが、それは女性陣に火に油を注ぐだけ。
「否定してくれないってことは、蒼君もそう思ってるの!?」
「嘘~!? 蒼先輩なら『そんな事ないよ』って言ってくれると思ったのに」
萌絵と香純の戸惑いに、諒と蒼はまた視線を重ねると、思わず笑い合った。
夢の国からの帰り道。
楽しい時間が未だ続いているかのように。
その後も水宮駅に着くまでの間、四人は賑やかに会話をし、今日という日を最後まで楽しむのだった。




