表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋づくし  作者: しょぼん(´・ω・`)
第六章:夢の国には何がある?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/95

第六話:空気を読めず。空気を読んで

 コースも二週半を走り終え、未だトップは日向ひなたあおいの赤いカート。

 だが、それは接戦といって良かった。


「妹ちゃん、ここまで引き離せないなんて!」


 完全にライバルと認めた相手を褒め称えるような、どこか熱血さを感じる笑みを浮かべる日向ひなたに。


香純かすみちゃんこういうのセンスあるから。勝ちたいなら油断しちゃダメだよ」


 あおいは笑顔を見せながらも、言葉で彼女の気持ちの緩みを戒める。


 そんな彼女達の後塵を拝する、香純かすみと萌絵の乗った青いカートでは。


海原うなばら先輩、インの攻め方うますぎです!」


 悔しげな口調ながら、顔は興奮したような笑顔で、完全にこのレースを楽しんでいる香純かすみに対し。萌絵はといえば、予想以上に激しい運転に顔を青ざめさせ、バーを強く掴んだまま声を発せずにいる。


 香純かすみは、日向ひなた達の後ろを付けながらも、ずっと抜けそうで抜けない焦れったさをずっと味わわされていた。

 勿論ただでは終わらず、引き離されずにしっかり付いてきているのは彼女のセンスといって良い。


 そんな二人の予想外の接戦は、ただひたすらに最短コースを攻める難しさと、競り合う事で生まれる最速で走れないれた環境を生んでいた。


 コース取りと香純かすみ達をブロックする事に集中していた日向ひなたは、森を抜けたラストのコーナーまでのストレートに入る。

 やや下り坂。飛ばしすぎればコーナーで勢いよくスピンする。経験でそれを理解していた彼女は、コーナーが近づいた所で少しアクセルを抜き速度を緩める。


 勿論それは香純かすみも一緒だ。

 とはいえ、よりインを突ければ勝てるかもしれない。

 だからこそ速度はできる限り合わせ、虎視眈々とラストチャンスに賭けていたのだが。


 突然聞こえた第三のエキゾースト音。

 それが一気に近づいたのを耳にし、二人ははっとする。


「嘘!?」

「おにい!?」


 瞬間。二人は震撼した。


「諒様! 今です!」


 完全に勝負に存在しなかったはずの緑のカートが、椿の声と共にコーナー外側になる進路のまま、速度を落とさず一気に抜き去っていく。


 そう。

 二台の牽制が生んだ膠着状態に対し、諒はただひたすらに、己が出せる集中力でカートをほぼ最高速で走らせ、追いついてみせたのだ。


 二台の前に躍り出た諒のカートは、オーバースピードのまま、突然車体をコーナーに合わせるように大きくイン側に曲げると、勢いそのままに、滑りながらコーナーに突入する。


 タイヤから上がる白煙。

 流れるようにコーナー外側に沿って滑るカート。


 大興奮の椿。

 真剣過ぎる諒。


 そんな彼らの走りを見せつけられた日向ひなた香純かすみは、唖然としながらコーナーを抜けていく。

 抜き去られた先で、チェッカーフラッグを受ける諒達を見ながら。


「諒君、真剣になり過ぎでしょ……」


 ボウリング場の一件を思い出し、日向ひなたは思わず呆れた声を出し。


「おにい、あんなにうまかったの?」


 香純かすみも唖然としたまま、そう呟くのだった。


*****


 ドリフトカートを堪能した諒達は、一度近くのベンチに場所を移していた。

 想像以上の荒れた走りに車酔いになってしまったのか。

 ベンチに腰を下ろしている萌絵の顔色がかなり悪い。

 隣には椿が座り、優しく彼女の背中を擦ってあげている。


「霧島先輩。本当にごめんなさい」

「だ、大丈夫だよ。普段より早くって、カートが思ったより揺れたから。ちょっと、びっくりしただけ」


 萌絵の前に立ちしょんぼりとする香純かすみに、彼女は無理に笑みを返す。


「あの……ほんとごめん。妹ちゃん思ったより運転上手くって、思わず普段より飛ばしちゃって……」

「気にしないで。少しここで休んでたら、すぐ元気になるから」


 同じく申し訳無さそうな顔をする日向ひなたにも、彼女は責めることもなく笑顔を見せる。

 この場の空気を悪くしないようにしているのは明白。

 それが二人の申し訳無さを加速させる。


 そんな何とも言い難い空気が漂ったその時。


「まあまあ。楽しむ時ってそんなもんだと思うよ。ね? 諒」

「そうそう。だから日向ひなたさんも香純かすみも、あまり自分を責めないの」


 自動販売機で飲み物を買ってきた諒とあおいが、そんな慰めの言葉を掛けながら、ペットボトルを手にベンチに戻ってきた。

 あおい香純かすみに無糖の紅茶を、日向ひなたにはオレンジジュースをそれぞれ手渡し。諒は椿に緑茶を、萌絵には水をそれぞれ手渡す。


「萌絵さんはこれも」


 合わせて彼女に手渡されたのは酔い止めの錠剤。

 それを手にすると、萌絵は短く「ありがとう」と何とか笑顔を見せると、薬を水と共に呑み込む。


「でも、正直一番椿さんにびっくりだったよね。諒のあの運転を普通に楽しんでいたし」

「それは……走っている時の風を切る感覚が、とても気持ちよかったものでして……」


 あおいが場の空気を変えるかのようにそんな話題を振ると、椿は少し顔を紅潮させ、恥ずかしげにそう語ると、お茶を口に含む。


 ふと、その時の諒の顔を思い返し、日向ひなたは思わず苦笑する。


「椿さん喜んでくれたのはいいけどさ~。諒君ちょっと大人気おとなげなくない?」

「え?」

「あんなに真剣になっちゃってさ~。ゴーカート得意だったなら、先に言ってくれたらいいのに」


 やれやれといった呆れ顔。

 だが、そこには以前のボウリングの時のような白けた雰囲気なく、完敗した潔さが漂っている。

 彼もそれは理解していたが、内心は、


  ──また、やっちゃったよな……。


 と、少し心苦しく思っていた。


「でもおにいって、ここ来たことあったっけ?」


 そんなやり取りを見ていた香純かすみがふと、気になったことを尋ねてみる。


「ないよ。何ならリアルのゴーカート運転したのも初めてだったし」


 さらりと返された答え。

 それを聞いて、目を皿のようにしたのは日向ひなただった。


「うっそでしょ!? あんな走り、初めてでなんて無理無理!」


 ありえないと強く否定する反応も最もだろう。

 普通こういう乗り物は、慣れないと戸惑いばかりでスピードを出すのすら勇気がいるもの。それをこうも簡単に乗りこなされては堪らない。


 だが、その謎を理解している男がそこにいた。


「諒って昔から集中力とセンスがずば抜けてるんだよね。以前二人でゲームセンターの『マリオンカート』を遊んだことがあったんだけど、一回プレイしただけで感覚掴まれて、経験者の僕が抜かれないようにするのに必死になるほどすぐ上達してたし」

「そういえば、ボウリングもお父さんに初めて教わったら、すぐコツ掴んで簡単にスコア伸ばしてたっけ……」


 ゲームセンターのレースゲーム『マリオンカート』の話を聞き、ふと昔の事を思い出し、どこか納得したような顔をする香純かすみ

 二人の会話を聞いた日向ひなたは、ふぅっとため息を漏らすと苦笑する。


「諒君ってさ。女神様にチート能力でも貰ってる訳?」

「え? チート?」


 例え話の意味が分からず、ただ首を傾げ戸惑う諒の天然の反応もまたそそるのか。


「そういうの分からないのも、諒君がピュアってる証拠だよね」


 日向ひなたがにこやかな笑顔でそう言うと、周囲も釣られて笑ってみせた。


「この後はどうなされますか? まずは萌絵様の体調が戻るのを待ちましょうか?」

「そうだね~。流石に無理させられないしな~」


 椿の気遣いを感じる問い掛けに、日向ひなたも同意すると、


「私はここで待ってるから、みんなで楽しんできて。折角楽しみにしてたんだし。落ち着いたらMINEして合流すればいいし。ね?」


 萌絵は気丈に笑みを浮かべ、彼女達にそう促した。


  ──萌絵、気を遣ってるなぁ……。


 長い付き合いの日向ひなたはそんな彼女の笑みの裏に隠れた心をはっきりと理解していた。

 普段の友達と一緒の時も、何かと気を遣う彼女だからこその一言。

 確かに大事に至るような事はないものの、皆で楽しむ今日という日で一人にするのは気が引ける。


 日向ひなたが少し迷った顔を皆に向けると。あおいも、椿も、香純かすみもまた、どうすればいいか分からず戸惑いを向けてしまう。


 そんな中。

 一人だけ、違う顔をした者がいた。


「うん。みんな楽しんできてよ。萌絵さんは俺が一緒に付いて見ておくから」


 そう笑顔で口にした諒に、思わず皆が視線を向ける。


「萌絵さん一人放っておけないし。だけど萌絵さんが言う通り、みんなに少しでも楽しんでほしいしさ」

「諒君だって、みんなと一緒がいいでしょ? だから大丈夫だよ」


 思わず上目遣いに、安心させるようにそう気を遣う萌絵だったが、諒は少し気恥ずかしそうに頭を掻く。


「……本音を言うとさ。遊園地の中が思ったより雰囲気いいから、ここで落ち着いて景色見たりもしたくって」


 困ったような笑み。

 本音にも感じるその言葉を聞いた他の面々は、互いに顔を見合わせる。


「どうする? 僕は二人がいいっていうなら良いけど」


 あおいが提案を受け入れるような言葉を口にすると、


「そうだね。お言葉に甘えて、萌絵は諒君に任せて、私達は次のアトラクション行こうか? 椿さんと妹ちゃんもそれでいい?」


 日向ひなたもまた笑顔で二人にそう尋ねる。


わたくしは、構いませんが……」

「……霧島先輩。おにい。本当にいいの?」


 何処か気が引ける二人が、ためらいがちにそう言葉を返すと、諒は笑みを崩さす頷く。


「勿論。萌絵さんが落ち着いたら、またみんなと楽しめるからさ。あおい日向ひなたさん。二人を任せていい?」

「もっちろん。但し。二人はちゃんと元気になったら合流してね。ずっと二人っきりとか許さないから」


 意地悪っぽく笑う日向ひなたの言葉に、思わず諒は苦笑しながら頷く。


  ──きっとおにいみんなを気遣ってるんだよね。

  ──諒様や萌絵様のお気遣い、無駄にしてはいけませんね。


 椿と日向ひなたも、そんな彼等の心の内を感じ、ふっと笑みを見せる。


「……分かった。おにいの分も楽しんでくるね」

わたくしもお心遣いに感謝し、楽しませていただきますね」

「うん。後で何処でどう楽しんだかは聞かせてもらうよ」


 二人の言葉に、感謝するかのような笑みを見せる諒。


  ──諒君……。


 そんな彼の優しさが胸に来たのか。

 萌絵はじっと彼を見つめ、少し目を潤ませてしまう。

 だが、流石にこの場で泣く訳にはいかないと、ぐっと涙を堪えると、


みんな、しっかり楽しんでね」


 そう言って、彼女もまた微笑んでみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ