打ち上げパーティー
分類係が設立され一年。
ファイルは変わらず、分類係に届くが、一咲が解決するスピードの方が早かった。
最近では将太が分類係に顔を出すこともなかった。一咲の推理した事件の裏付けや犯人逮捕で忙しかったからだ。ゆっくり三人でお菓子を食べたり、ボードゲームをしていた日々が懐かしい。と多忙の中、将太はずっと考えていた。
だから今日を待ち望んでいた。
将太は有名店のお菓子を片手に、久々に地下二階。分類係のドアの前まで来た。
一咲がこの部屋の全ての未解決ファイルを解決してしまった。と、連絡を受けたのは三日前のことだった。「打ち上げパーティーをする!」と電話口で嬉々として声を上げた全治を思いだし、将太の口元も緩んだ。
一咲におめでとう。と伝えたくて、将太は残っている仕事を全て片付けて、有休をとった。久々にお菓子を頬張る一咲の笑顔を想像すると、自然に顔が綻んだ。
将太が緩んだ顔を引き締めて、ドアノブを回し、部屋へ一歩足を踏み入れた瞬間。
パンッ!
乾いた発砲音。火薬の臭いが鼻につき、天井からはひらひらと紙吹雪が舞っていた。
「いえーーい!おめでとう将太くぅーん!」
発砲音の正体は全治が放ったクラッカーだった。頭に絡み付いたリボンを払いながら、将太はため息をつく。呆れではない。久々の再会の嬉しさから。
「何がおめでとうだよ。それは一咲ちゃんに言う台詞だろ」
「何言ってるのー…。なんだかんだ将太くんが地道に犯人逮捕してきたからでしょー。おかげで分類係は警視庁一番の検挙率だよ」
分類係はできたばかりの部署。刑事でもない一咲の推理に賛同する人は初めは全くいなかった。
どんなに推理に筋が通っていようと、パトカー一台出してもらえず、捜査係からは門前払い。しかたなく係唯一の警察官である将太が犯人逮捕に赴くしかなかった。
もちろん銃の携帯も許されるわけなく、将太は生身でいくつもの死線を潜らなくてはならなかった。武勇伝と捕まえた犯人が両の指のでは数えられなくなった頃。一咲の推理力を認めた上層部が大々的に動いてくれるようになったのはつい最近のこと。数は偉大なり、あっという間に一咲の解いた事件は未解決ではなくなっていったのだ。
「将太くんなんかモテモテでしょう。流星の如く現れた若手刑事だって!もっぱらの噂だよー。まるでドラマみたい」
「モテたりはしてないよ……まぁ、夢だった仕事はしている気がするけど」
「でもいい気分でしょ」
「そりゃあ……」
言いかけた途端。
またパンッ!と発砲音が響く。ソファの上で一咲が膝をかかえて二人を睨み付けていた。
「一咲ちゃん久しぶり!」
将太が片手をあげて挨拶すると、一咲はぷいと顔を背けて
「誰のおかげだと思ってるの」
と小さな声で呟いた。
「ごめんごめん。なにもかも一咲ちゃん推理力があってこそだよ!」
背けた顔の方に移動して手土産のケーキを渡す。
「おめでとう一咲ちゃん。名探偵に返り咲いたね」
「うん。将太もたくさん犯人逮捕してくれてありがとうね」
ケーキを受け取り、顔をまた背けてから一咲は恥ずかしそうに言った。
「さぁさぁ、将太くんも来たことだし……さっそく分類係の打ち上げパーティーをしよう!今日の分の事件はもう全部一咲ちゃんが解いちゃったからあとはもう飲み食いするだけだ!」
どこから持ってきたのか鼻眼鏡に派手な色の三角帽子を被りながら全治は次々と冷蔵庫からお菓子や飲み物、オードブルを取り出す。
「なんでお前が一番はしゃいでるんだよ」
「そうよ。あんた、何一つしてないじゃない」
全治は「はぁ」とため息をつくと、ソファに飛び乗って高らかに宣言をする。
「何言ってるの……。この係を作ったのは俺!一咲ちゃんと将太君を引き合わせたのも俺!つまり俺がいなかったら未解決事件は未解決事件のままだったわけだ!俺が一番の功労者じゃーん」
「そういえば全治って僕の上司だったんだっけ」
「すっかり忘れてた」
全治はへにゃへにゃと座り込む。
「ひっ……ひどい。ここ作るのだって相当手間をかけたのにぃ」
鼻眼鏡でパーティー帽子を被って落ち込んでる姿がなんとも滑稽で将太は一咲と顔を合わせて笑った。
「あーもうどうでもいいや!」
全治は飛びかかるくらいの勢いでぴょんと立ち上がると、将太と一咲にグラスを握らせる。
「では……分類係の久々の再会と一咲ちゃんの名探偵の復帰の第一歩を願って……カンパーイ!」
「乾杯」
「……かんぱい」
飲めや歌え。歌うほどはしゃいでるのは全治だけだったが、三人は会えなかった時間を埋め合わせるようにお菓子を食べたりゲームをしたり、楽しい時間を過ごした。




