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探偵助手は狂わない  作者: にょん
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同じセリフ

 是清邸殺人事件の真相は、一咲の推理した通りだった。


 一咲が将太に探すように指示した人物は、この事件の第一発見者の使用人の女性、樋口美穂だった。


 身寄りもない女性だったが、将太の地道な聞き込みから彼女は、田舎の港町で、静かにひっそりと暮らしているということが分かった。


 将太が美穂を尋ねると、彼女は泣き崩れ、ぽつりぽつりと事件について証言をした。

 

 裕子には実子である。泉有香(いずみゆか)という当時3歳の娘が存在していた。


 泉裕子は、女性に遺書を残していた。


 遺書には以下のことが書かれていたという。


 愛する正宗のいない世界で生き続けることが辛いこと。残していく有香を久雄と静香の2人から守ってほしいということ。遺書の存在が明るみに出れば、静香の自殺が立証され、遺産は有香が相続することになってしまう。そうなれば静香と久雄がどんな嫌がらせを彼女にするかわかったものではない。


 下手すれば殺されてしまうかもしれない。


 そう考えた美穂は、有香を連れてある日こっそり屋敷を去ったのだという。


 静香と久雄とすれば好都合だったのだろう。


 いないものとした子供が本当にいなくなったのだから。


 美穂の証言と。有香の存在が証拠となり。


 事件は、静香と久雄が遺産を不当に受け取った詐欺事件として立件されることになった。


 美穂には誘拐の容疑がかかったが、有香を保護していたとみなされることになった。捜査をむやみに攪乱したとして別件での罪には問われることになったが、それも大した罪にはならないと聞き、将太はほっと胸をなでおろした。


 美穂と静香と久雄。三者三葉の三人は、それぞれ同じことを言った。


「どうして今更」


 事件の当事者。全ての人が思ったことだ。


 ―久雄と静香は逮捕されるべき人間だった。


 それは将太の中で揺るがなかった。裕子の自殺に2人の嫌がらせが影響しているということは明白だったからだ。


 将太の心に影を落としているのは、美穂と有香のことだった。


 美穂と有香は親子として幸せに暮らしていた。その幸せな日々に自分は横やりを入れたのではないだろうか。


 当時3歳だった有香は、中学生になっていた。有香は、美穂を本当の母親だと思っていた。しかし彼女は真実を知った。実の母親は自殺していたこと。自分を守るために、美穂が屋敷から連れ出したことを。


 その現実を果して、何の心の傷も負わずに受け止められるだろうか。


 そんなことがぐるぐると将太の中で渦巻き続ける。


 将太が結果のあらましを一咲に報告すると、一咲は「そう」と言ったきり、別の未解決ファイルに目を落とした。

まるでもう、終わった事件のことなどどうでもいいと言うように。


「ねぇ、一咲ちゃん。一緒にケーキ食べない。今日はいいとこの買ってきたんだよ?」


「後で、食べるから。冷蔵庫入れておいて」


 いつ聞いても、同じ返事。冷蔵庫には、昨日の将太が買ったプリンが入ったままだった。その奥には一昨日のモンブラン。将太はため息をついて賞味期限が切れたものから捨てていく。


 是清邸殺人事件を解いたあの日から。一咲は大好きだったおやつを食べることもせず、まるで何かにとりつかれたように朝から晩までひたすら未解決事件をファイルを使って推理していた。


 最近は全治も分類係に顔を出さなかった。


「なんで今更」

 

 その言葉を将太は何度も、何十件も、何百件も聞いて。


 一年後、分類係からは


 未解決事件のファイルは一つもなくなった。


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