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第四十七話

 第一体育館ロビー前。

 全クラスの順位表が載った掲示板に目をやっていた木場が顔を上げた。

 コートの方から歓声が上がったのだ。

「お~、柴田くん頑張ってるみたいだな」

 腕組みをしてうんうん唸る。

 そうこなくては、とほくそ笑む表情の真意は誰にも分からない。

生徒会長という人望の象徴の肩書を持ってはいるが木場には他人を寄せ付けない雰囲気があった。まるで動物園の猛獣を織の外から眺めるように、下級生たちが一歩引いたところで木場を見る。

 すると好奇の目を向ける半円状の群衆の中から級友の声が飛んできた。

「恭平、前の組の試合終わったから急げよ? もう皆集まってるぞ」

 木場は級友の知らせに反応せず、全く別の方向を見る。

 一般客席に通じる階段を二人の男が上がっていく。

 Tシャツ短パンという簡素な装いではあるがデザインや材質を見ても運動用ではなさそうだ。

「ちょっと着替える」

「おい、人の話聞いてた? もう始まるの!」

「そもそも俺は補欠人員だし初めからベンチにいる必要はないだろ? 進行の確認とか用意とかあるし、生徒会長は忙しいのだよ」

「んだよそれ。すぐにでも試合出れる格好じゃん。サポーターまでつけて……」

 木場は男達の後を付けた。

 一般客席には既に多くの保護者達が着席していた。だが、それよりも多いのが若い男達だ。全員私服だが恐らく学生であろうということは分かる。自分よりも年下とみられる者も多い。

 薄暗い観客席の最後方、通路の端から辺りを見てみる。

 客席前方を陣取り、ティーンエイジャーらしく騒いでいる者を何名か確認。しかし、過度な騒ぎ方をしているわけではない。そもそもスポーツイベントであるから声を出すこと自体は問題ではない。また、観戦している保護者達が眉を顰めていることもない。一先ず問題は無いだろう。

「お母さーん、健くんの試合終わっちゃったみたいだよ~」

「優が早く準備しないからでしょ。で? 愛しの我が息子は勝ったのかしら」

「分かんなーい」

 夫人と中学生と見られる少女が通路までやってきたので道を譲る。

「結構混んでるねー、ゆっくり見れるところが良いんだけど」

「私は最前列がいいわ。息子の雄姿を録画しなきゃ!」

「えぇ~、なんか前の方、ヤンキーっぽいのいるし後ろでいいよ~……」

 いかん! と木場が動いた。

 座席に余裕があっても、間隔を開けてバラバラに座られると席が探しづらい。

 時間が経つにつれ人が増えることも予想され、立ち見客を最小に済ますためにも整理する必要があるだろう。本来このような仕事は教職員が遂行すべきだが、彼らは見物客が増えることなど予想していないだろう。

 木場は巨躯を弾ませて一気に階段を下りる。

「保護者の皆さま、見物のお客様! 西高校生徒会長の木場です!」

厳つい大男の突然の登場。朝の挨拶を見ていた者は当然木場を知っているのだが、コートの上から見下ろすのと同じ目線で対するのとは圧迫感が違う。本当に高校生か? という見た目に大人たちは唖然とした。ましてや同じ年ごろの学生にとっては恐怖を抱くに違いない。

「この後も観戦のお客様がいらっしゃいます! 間隔を詰めてご着席ください! また、身の回りの貴重品類は常に携帯するか、一階のコインロッカーをご使用ください! 荷物を置いての席の確保等はご遠慮ください! 多くの皆様が楽しめるよう、ご協力お願いいたします!」

 木場が深々と頭を下げると、「お、おぉ……」と見た目に似合わぬ丁寧な物言いに感心した客が移動し始めた。

 大人たちに至っては「大したもんだ」といった表情をした。

「ご協力いただきありがとうございます!」

 再度お礼を述べた後、すぐに後方通路に引っ込む。

 工業生と見られる若者達も反発する様子がみられなかったことで木場も一応の満足を得た。

(俺を知ってる奴らにゃこれで十分だろ)

 歩いて来た通路を引き返し、コートに向かおうとした時、

「ありがとう。もしかして私たちの為に?」

 はにかむ夫人と女子中学生が似た顔をしながらお礼を言ってくる。

「いえいえ、私は生徒会長ですから。生徒の為に動いたまでですよ」

「あら、生徒の為ならその家族もってこと? 立派ねぇ、健も見習ってほしいわ」

「失礼ですが、もしかして息子さんは健星くんではありませんか?」

「えぇそうだけど…」

「やっぱり! お顔が似てらしたので、そうじゃないかと思っていたんです! そうすると君は妹さんかな?」

 木場は柔和に笑う。

「は、はい。柴田優です……」

 遠慮がちに優が名乗ったと同時、コートの方でホイッスルの甲高い音が鳴り響き、歓声と拍手が起こる。

 木場が所属するチーム、3年C組のバレーが始まったのだ。

「すみませんが、私は今からあの試合に出なければいけませんので、これで……」

「そうなの? 残念、もっとお話ししたかたのにぃ……。でも健にこんな優しい先輩がいるなんて知らなかったわ。ありがとうね、会長さん」

 木場は一礼してから薄暗い通路を引き返していく。

 途中、他校に進学した中学時代の同級生が話しかけてくるも無視してコートに急いだ。

(家族が来ているとはねぇ)

 木場は舌打ちをした。

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